第121話 ココファーム・ワイナリー オークバレル 赤

うーむ・・

ワインのボトルを前に、ちょっと躊躇している。

「すみません・・赤は勝沼醸造のアルガーノ以外は今日はこれしかなくて~」

見せられたワインボトル。

ココファームワイナリー オークバレル 赤。

カルフォルニアの畑で取れたブドウをカルフォルニアで醸造。

ココファームと関係しているらしいワイナリーで作られたものである。


日本ワインじゃないんだけどね。


香りが豊かで、樽のコクと軽いタンニン。

”肉料理に合うよな・・・”

というわけで、子牛のステーキを注文した。

思った通り、合うのだけど・・・。



店のドアが開いた。他の客が入ってきたのだろう。

「いらっしゃいませ~」

その客は隣に来ると、ドッカリと座ってきた。

「お・・・こんばんわ高橋さん」

「高橋さんじゃないわよ!」

ミキちゃんである。なにやら表情が怖い。


「ちょっと!相談に乗ってほしいんだけど!」

「ええと、頼まれてると思っていいのかな?」

「もちろんよ!!」

人に頼む態度ではないと思うのだけど。

「美月に頼んだら?」

「あの娘じゃ役に立たないの!恋愛関係なんだから」


話し始めると急にしおらしくなった。

頬を赤らめ、ちょっとうつむいて小声で話し始める。

「私、最近好きになったができたのよ。その彼がね・・」

具体的なことは一切話さない。好きになった相手がいること。

相手には幼馴染がいて、その娘も相手を好きなこと。

どうしたら付き合ってもらえるか・・?

そういった風に相談した。

「で、その高校生クンは好きって言ってくれてるのかな?」

ブフォッツ!!

おいおい、酒を盛大に吹き出したよこの娘。

「な・な・な・・なんて!!??」

ミキちゃんて地元は関西なのか・・・?

「ちょっと考えればわかることだよ」

好きな子って言ったから年下・・そもそも幼馴染なんて気にするのは学生くらいまでだろう。

彼が大学生なら。”彼は大学生なんだけどね”くらい言うだろうから・・それより下を言ってみた。

まさか図星とはね。

「・・・好きって、まだ言われたことない・・・」

「ふうん」

「だって、まだ会ったばかりだし・・」

さらにうつむいて暗くなる。まったくミキちゃんらしくない。

「そいうえば、写真撮ってくれた・・」

「へえ、見せてよ」

スマホで写真を見せてくれた。

”これは・・・・!?”


光の中で、恥ずかしそうに頬を赤らめながら微笑む女性。

その女性からは愛情を感じ取れる。

そして、その写真を撮った人物も、間違いなく女性に対して愛情があるのだろう。

芸術は人を感動させる。

この写真はそのレベルに達している。

これは・・・見事だ。


「ふうん。なるほどね。たぶん、大丈夫じゃない?」

「な・・な・・なんで、そんなこと!?根拠は何よ!?」

「じゃあ。明日のお昼にメッセージで、次の休みに会う約束をしたら?

 ご飯食べた後のほうが良いから12時半ごろとかに」

12

「わかった、そうする」

「それにしても、本当によく撮れてるね」

「なに、じっくり見てんだよ」

スマホを奪い返された。

「じゃ、もう帰るから!」

席を立って、足早に店を出ていくミキちゃん。

「おい。ちょっと!・・」

扉を開けて出て行ってしまった。

「・・・・また俺が払うのかよ?」

相談してきたのはミキちゃんの方だろ・・・?




----


後日。ミキちゃんとまた”いい天気”で会った。

満面の笑みで報告してくる。

「えへへ、めでたく彼氏ができました!」

「へえ、おめでとう。じゃあ、この間の飲み代返してくれ」

「でも、アドバイス役に立たなかったよ!12時半って言ってたのに・・」

「12時に彼氏から連絡が来たんだろ?」

ポカンとするミキちゃん。

「12時に彼氏から連絡が来るから、その前に連絡しないように12時半って言ったんだよ」

「な・・・なんで!?」

ぐぬぬぬ・・・

急に不機嫌になるミキ。

健司の掌で踊らされたようで気にいらないのであった。

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