第90話 山梨県甲州市 ぶどうの丘

もちろん、この状況である。

断ることもできたし、キャンセルしてもらうこともできたろう。

でも、真剣な瀬戸さんの眼を見ると、断れなくなった。

断ると、きっと悲しませることになる。

胸の奥を何かがチリチリと刺激する。

この感じはなんだろう。


”とりあえず、行って見るだけ行ってみましょう”ということにして、泊まるかどうかは保留。


車で結構すぐの場所だった。

というか、ここは・・・結構予約取れないんじゃなかったっけ。


山梨県甲州市ぶどうの丘。

小高い丘の頂上にある観光施設。

泊まったことはないが来たことがある。

「眺めがいいところですね。」

瀬戸さんは、ちょっと嬉しそう。

「ここはワインの試飲もできるそうなんですよ。温泉もあるそうですし。」

一生懸命アピールしてくる。



結局根負けした。


チェックインして案内されたのは、ツインルームの洋室。

「早乙女さん、ありがとうございます。」

満面の笑みである。

「ワインの試飲に行きますか?」


「その前に・・・コンビニに行っていい?着替えを買わないと・・・」


泊まるなんて考えてもいなかったから、全くの手ぶらである。

下着くらい買っておきたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る