第127話 敷島酒造 シェンブルガー

”いい天気”に美月と一緒に来ている。

カウンターに座った美月はソワソワとしている。

今日は、親友のミキちゃんが彼氏を連れてくることになっているのだ。


待っている間に、軽く食べ物と飲み物を注文していた。

和風のサラダと、白ワイン。

山梨県甲斐市 敷島酒造 シェンブルガー

日本では珍しい品種のぶどうで作られた白ワインだ。

爽やかな香りとみずみずしい果実味。

サラダとよく合う。

「ミキちゃん遅いですね。まさか逃げたとか・・」

「焦らないで待ちましょう」

すると、扉が開く音。

「いらっしゃい〜」


やってきたのは、ものすごく恥ずかしそうにもじもじとしながら入ってくるミキちゃんと、青年。

優しそうで、おとなしそうな若い風貌。

見ると、隣で美月が唖然としている。

「こんばんわ、紹介するね。彼氏になってくれた三崎海斗くん」

「こんばんわ、はじめまして」

礼儀ただしくお辞儀する青年。

「こんばんわ、早乙女健司です。よろしく」

「あ・・・ごめんなさい。瀬戸美月です。ミキちゃんの高校からの友達です」

あわてて、挨拶を返す美月。

我々の隣に座る、ミキちゃんと三崎くん。

すると、即座に美月がミキちゃんの手を引っ張って連れて行く。

「ミキちゃん。ちょっと聞きたいことがあるので、こっちに来てね」


なにやら、向こうの方でコソコソと話し始めた。


残されたのは、居心地悪そうに緊張している三崎くんと健司。

「三崎くん、緊張しなくてもいいよ。飲み物をたのもうか。ノンアルコールなんだろう?」

「あ・・・はい、じゃあ烏龍茶で」

「わかった、料理も頼んでいいからね」

とメニューを渡し、店員のミキちゃんに烏龍茶を頼んだ。

「三崎くんは、ミキちゃんと付き合って間もないんだろう?」

「あ・・はい。まだ数週間でしょうか」

「ミキちゃんは、ああ見えて繊細で寂しがりやなのでよろしくね」

「そうですね。でも・・」

「ん?」

「僕にはとても出来すぎるくらいの彼女です」

健司はにっこり笑って言った。

「それは良かった。似合いのカップルだと思うよ」

「ちょっと年が離れているので心配なんですけど」

「それを言ったら、我々のほうが年が離れたカップルだよ」

「美月さんと付き合ってるんですよね?すごいですね」

「凄い?」

「なにか、とっても信頼しあってる感じがします」

「そうかな・・」

「はい、とても」

「私からすると、三崎くんとミキちゃんもかなり信頼しあってると思うよ」

「そうですか・それは嬉しいですね」


向こうでは、美月とミキちゃんがまだヒソヒソと話し合っている。


「そうだ。聞こうと思ってたんだ」

「はい?なんでしょう?」

「あの写真。コンクールとかに出さないのかな?」

「え?あの写真って」

「実はミキちゃんに見せてもらったんだ。ミキちゃんの写真」

「あ・・今のところ出すつもりはないんですけど」

「それは残念だ、あの写真は素晴らしいと思ったよ。あれは、傑作だと思う。コンクールに出すべきと思うね」

「そうでしょうか・・」

「そうだよ」

「はぁ・・・」

「まぁミキちゃんと相談して見てもいいし、考えてみてよ」

「わかりました」

熱意ある目で三崎に語る健司。


健司の説得の結果、その写真はコンクールに応募することになる。

そのことによって、三崎の運命は大きく変わることになったのだ。


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