第102話 サドヤワイナリー HORLOGE(オルロージェ)2017 赤 ①
サドヤワイナリー HORLOGE 赤
オルロージェはフランス語で時計のこと。
ラベルに大きく短針と長針が描かれている。
「先程のワインはメルローとマスカットベリーAでしたが、これはマスカットベリーAとカルベネ・ソービニオンです。」
フルーティで軽やかな味。
でも香りは華やかで複雑。
「これも美味しいです。」
瀬戸さんは私の肩にもたれて飲んでいる。
「あのですね・・・
瀬戸さんには私のことを知ってもらいたいので話そうかと思います。
でも、聞いていて楽しい話ではないので嫌だったら言ってください。」
「はい・・早乙女さんのこと・・・教えてください。」
「私が、前の彼女と最後に会ったのは今から7年位前・・32歳の時でした。」
ーーーー
早乙女は32歳の時、同い年の尚子と半同棲のように暮らしていた。
お互い30代を迎え、そろそろ結婚を意識し始めていた。
そんな時、尚子に2年間の海外赴任の辞令が出る。
「あんまり行きたくはないんだけれどね。」
「でも、チャンスなんだろう?」
「まあね・・・」
「それじゃあ、海外赴任が終わったら御両親のところに挨拶に行こうか。」
「え?それってプロポーズ?」
「プロポーズの予約みたいなもんかな?だから帰ってきたら正式にプロポーズさせてくれ。」
「わかった、楽しみにしてる。」
そうして、尚子は旅立っていった。
といっても、毎日電話で短時間でも話をした。
時差もあるので、あまり長時間は話せない。
でも、その電話の声がだんだん元気がなくなっていくのを感じた。
「大丈夫か?体壊してたりしないか?」
「それは・・大丈夫。ちょっと仕事がうまく行かなくて。」
「最初はうまく行かないもんさ。頑張れよ。
夏休みにはそっちに行くから。」
「うん・・・」
だんだんと元気をなくしていく尚子。
早乙女は心配であったが、何もできなかった。
ある日、電話をしても尚子は出なかった。
メールに返事も返ってこない。
次の日も・・その次の日も。
そうして、早乙女のもとに、尚子の同僚の女性から連絡が来た。
「すみません。松下尚子の彼氏の早乙女さんですか?
申し訳ありませんが、松下尚子の行方をご存知ではないでしょうか?」
尚子の行方は早乙女のほうが聞きたいくらいだった。
とりあえず、電話ではなく直接話をしたいと伝え、彼女の職場近くの喫茶店で会うことにした。
その同僚から聞いて早乙女は驚き、愕然とした。
尚子は赴任先の上司との関係がうまく言っていなかったらしい。パワハラまがいの事もあったそうだ。
ある日、尚子は出社もせず会社で用意した住まいからも姿を消したそうである。
そして・・・会社で調べたところ記録上では日本に帰ってきた事になっているらしい。
もちろん日本の職場にもなんの連絡も来ていないそうで、行方がわからないそうだ。
早乙女は、尚子の同僚である山下さんに、自分のところにも連絡がないことを伝えた。
そして、なにかわかったら自分にも連絡してほしいと伝えた。
早乙女は焦って、知る限りの・・しかしながら数少ない共通の知り合いに連絡をしまくった。
しかし誰一人、尚子の行方を知るものはいなかった。
残念ながら、尚子の実家の連絡先を把握していなかった。青森県ということしかわからない。
早乙女は途方に暮れた。
そう。
早乙女の交際相手は、突然失踪してしまったのである。
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