第109話 ノーザンアルプスヴィンヤード waltz 2018
土曜日、瀬戸さんと待ち合わせをして映画を見に行った。
少女漫画が原作の実写映画。恋愛ものであった。結構面白いと思ったが、隣で瀬戸さんは非常に感動して涙を流していたいた。
「すごく良かったです。あの場面でヒロインが告白する場面、原作そのものでした。」
原作を読んでいたらしい。
レストランでランチを食べながら、感想の聞き役に徹する。
「さて、このあとは・・」
「夜ご飯は早乙女さんの家で食べましょう。その材料を買っていきましょうか。」
「もちろんいいですけど、もう家に来ますか?」
「はい!そうしませんか?」
「じゃあ、時間があるから夜ご飯は煮込み料理にしましょうか。」
ーーーー
「おじゃましまーす。」
食材を買い込んで帰宅する。
もちろん瀬戸さんも一緒に。
「じゃあ、まず料理の仕込みをしましょうか。」
シチュー用のもも肉(比較的大きなかたまり肉)に塩・胡椒し小麦粉をまぶす。それをフライパンで焼き色を付けて焼く。
一旦取り出した後、玉ねぎ1個半を薄切りにしフライパンで色がつくまで炒める。その後にんにくのみじん切りも加えて火を通す。
それと、先程の肉を一緒に鍋に入れて加熱。そこへ・・・ギネスビールを一缶入れる。
一煮立ちしたときにアクを取って、あとは蓋をして弱火で煮込む。
「どれくらい煮るんですか?」
「肉によっても違うんですけど、3時間くらいは煮込みたいですね。」
「じゃあ、それまではゆっくり待つしか無いですね。」
なぜか嬉しそうに言う。
「じゃあ、リビングで映画でも見ながら待ちましょうか。」
ソファに座って、DVDを再生する。古いフランスの恋愛映画。
食前酒?として青森シードルを飲む。
「これ、りんごのお酒ですか?美味しいです。」
映画を見ていると、瀬戸さんが方にもたれてきた。
見ると、恥ずかしそうに見上げてくる。
可愛いな・・
瀬戸さんの髪をなで、キスをする。
そういえば、ようやく2度めのキスだな・・
「外だと・・・こんな事できないので・・・」
なるほど、それで早く家に来たがったのか。
それから、キッチンタイマーに邪魔されるまでイチャイチャしたのだった。
ーーーー
料理の仕上げに、トマトペーストとバターとコンソメ。
足りなければ塩コショウを入れるのだが、今回は十分美味しくなった。
あとはサラダを用意して完成。
「それでは夕食にしましょうか。」
「はい、ワインも飲みますか?」
「そうですね、ビールも合うんですけど赤ワインも合うと思うので。」
ワインセラーからワインを選び出す。
ノーザンアルプスヴィンヤード Waltz 2018 。
ワイングラスに注ぐと濃厚な赤色。
「香りが・・なんというか重厚ですね。」
口に含むと、濃厚な果実味と・・
「ちょっとボルドーみたいに香りが層になって変わっていくね。」
「層になってですか?」
「口の中で鼻に抜ける香りが、時間とともに変わる感じです。」
「あ・・・確かに。」
これはいいワインだ・・
「このお料理、ちょっと苦味があるけどお肉が柔らかくて美味しいです。」
「このワインとの相性も良いですね。よかった。」
「そういえば、一つお願いがあるんです。」
瀬戸さんが真剣な顔で言う。
でも、酔っているのか肩にもたれたままではあるのだが。
「名前です。」
「名前?」
「付き合っているんですから、名前で呼びませんか?」
あぁ・・なるほど。
「いいですよ、では私のことも名前で読んでくださいね。」
「はい・・では試しに呼んでもらえないですか?」
「え・・と。美月・・・でいいですか?」
すると、ふにゃ・・・とした笑顔になった。どうやら嬉しかったらしい。
「はい、健司さん。これからもよろしくおねがいします。」
ーーーー
なお、やはりタクシーで帰ってもらうために説得するのには苦労した。
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