第21話 瀬戸 美月
私は、瀬戸 美月。24歳。
OL3年目で、独身です。
趣味は・・・なにもありません。
彼氏はいません。というか、男性とお付き合いしたことがありません。
高校の時は、地味な存在でした。
まわりの友達には、結構派手だったり、もてる子が多かったと思います。
そんな私も何度か告白されたことはあります。
でも、なんか違うというか。ちゃらちゃらした軽薄そうな男子だったり。暗そうな男子だったり。
なので、回答は”ごめんなさい”。
そうこうしているうちに、卒業。
大学に行って、ちょっとお化粧なんか覚えたりして。
でも、趣味もないし、入りたいサークルとかも無かったです。
誘ってくる男子は、だいたい”ちょっと飲みにいかない?”とか。
なんか、遊び人っぽいのが多くて・・・・・。
高校からの友達のミキちゃんに言わせれば、”誰でもいいから付き合っちゃえばいいじゃん”だそうなんだけど、ピンとくる人がいなかったんですよね。
そんなこんなで、大学も卒業しちゃいました。
ずーっと実家住まいなので、ご飯も出てくるし。なにも不自由ない生活。
おかげで、家庭科の授業以外ではほとんど包丁を持ったこともありません。
だけど、そろそろ親も不安になってきたのか、やんわりとお見合いを進めてきたりする今日この頃。
そろそろ結婚するという友達もいるし・・・
趣味はないけど、最近ミキちゃんに連れられておいしいご飯を食べに行くことが増えました。なので、趣味はおいしいものを食べることかな。
美味しいものを食べるのは大好きです。
よく連れられて行く店の一つである、”いい天気”。
ご飯もおいしい。
お酒はあんまり好きではないんです。でも、レモンハイくらいは飲める。
”いい天気”にはじゃばらハイというのがあって結構おいしい。
このお店はワインがおいしいらしいけど、ワインは好きじゃないんです。
苦かったり酸っぱかったり。
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ある日。お店の記念日と言って常連さんが持ってきたワインをちょっとずつ配られた。
うーん、ワインは苦手なんだけどな。
まぁ、せっかくなので一口だけ飲みましょうか。
口に含んだ瞬間、世界が変わるのを感じました。
ぜんぜん苦くもなく、酸っぱくもなく。
鼻に抜ける、芳醇な香り。
まるで、花園に舞い込んだようです。
あぁ、この世界にはこんなにおいしいものがあったなんて。
ほんの少ししか飲めなかったのが残念です。
もう一度、飲みたい。あの体験をしたい。
そう思っていました。
そんなときに、またお店に行くと、あの人がいたんです。
そして・・・店員と話していました。
「まぁ、ひさびさにワインをまとめ買いしにワイナリーを巡ろうと思ってます。」
思わず、話しかけちゃいました。
「え~いいな~どこ行くんです?」
隣のミキちゃんがびっくりしています。
何しろ、私は男の人に自分から話しかけることは無いのですから。
でも、私は夢中でした。
この人は、あんなおいしいワインを知っている。
じゃあ、美味しいワインを買いに行くんだ。
・・・私ももう一度、あんなおいしいワインを飲みたい。
「私も一緒に行ってはダメですか?」
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予想以上でした。
ちょっとずつだけど、美味しいワインをいろいろ飲めました。
連れてきてくれた早乙女さんはたくさん買い込んでましたけど、私も3本ほど買いました。
お昼ご飯、とってもおいしかったです。
景色もとってもきれいでした。
その後も試飲して、思ったより酔ってしまったらしいです。
少しずつしか飲んでなかったのに・・・
帰りがけに、早乙女さんが聞いてきました。
「瀬戸さん。あと一か所寄り道してもいいですか?」
なんでも、最近気に入っているワイナリーだそうです。
早乙女さんは売店に行きましたが、私はそのワイナリーからの眺めを見ていました。
素敵でした。
夕焼けに染まる山々。
そよぐ風。
ほんとに素敵な体験。
来てほんとによかった。
「これ、ぶどうジュースです。よかったら飲んでください。」
手渡されたぶどうジュース。
小ぶりの瓶に入った赤紫の液体。とてもきれい。
早乙女さん、とてもやさしい人です。
そして、そのぶどうジュースを飲むと・・・
やっぱり、世界が変わるのを感じました。
あぁ・・・本当においしい。
美味しいものって、まだまだいっぱいあるんですね。
「このジュース・・。ものすごくおいしいですね。」
「そのジュースのぶどうは、小公子という種類でワイン用のぶどうなんですよ。さっきのワイナリーでは、同じ種類のぶどうから作ったワインが作られているんです。
「そうなんですか、じゃあきっとワインもおいしいんですね・・・」
その時から、車のトランクにあるであろうワインのことしか考えられなくなりました。
あのぶどうジュースから作られたワイン。
美味しいんでしょうね・・・
それが、ほんの2メートル後ろに存在する。
あぁ、なんで私は買わなかったんでしょう。
後悔しかけた時に思いつきました。
やさしい早乙女さんです。お願いしたら少し飲ませてもらえるかもしれない。
なので思わず言ってしまいました。
「家ついて行っていいですか!?」
たぶん酔っていたんです。
結局、早乙女さんのおうちにお邪魔しました。
何かいろいろ言ったような気もするんですけど、ワインのことしか頭になかったんです。
早乙女さんに作っていただいた料理。レストランよりよっぽどおいしいかも。
そして、小川小公子・小川猫小公子・杉樽は及ばざるが如し。
どれもおいしかったです。
あぁ。ワインってホントはおいしかったんですね。
ほんとに幸せです。
「ほんと美味しかったです。それに、今日は楽しかったです。」
そして、その後の記憶は全くありません。
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目を覚ますと、見知らぬ天井でした。
窓から、陽の光が入っています。
私は、お布団にくるまって寝ていたようです。
あれ?
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