第20話 英雄、鏡会の事情を知る

「ササンクアは素直な子だろ?」


「基本はそうですね。ですが塔のことになると頑固と言いますか、絶対に譲らないところもありまして。チュウゲン様のチームに送り出すことになったと聞いたときは、塔へ行けるかもしれないと本人も喜んでいたぐらいですから」


「やっぱり素直なんじゃないか」


「まあ、聖塔の浄化と神々との再会が鏡会の悲願ですからね。心の中で同じように思っている者は多いのでしょう。ボクだって選ばれていたら喜んで……いや、やっぱり無理です。ボクは臆病なので」


 だらしない体を見ればとても戦闘なんてできそうにないしな。


「チュウゲン様のチームが解散になって嫌な予感がしていたんです。あの子のことだから鏡会へ戻らずに無理をしてでも塔へ行こうとするんじゃないだろうかって。ボクの思っていた通りでしたよ」


「そこでジニアを選ぶあたり、あのお嬢ちゃんはいい目をしておるの」


「ええ、本当に。ジニア様は噂に違わぬ方のようです。ただ禁足派に目を付けられたら面倒なことになりますから、そこは十分に注意をしてもらいたいのですが」


「キンソクハ?」


「簡単に言えば鏡会の人間はダンジョンに立ち入ってはならないという考え方の人たちのことです。過激な者は何人も不浄なるダンジョンに入ることはまかりならんと主張をしていまして。あまり目立つと彼らのターゲットになってしまうかもしれません」


「なんじゃ、そのトンチキどもの主張は。それでは探索者は飯の食い上げじゃわい」


 スノウボウルが口を曲げて憤る。


「ササンクアのような聖女がダンジョンに入ったら大変なことになるのか?」


「いいえ。きちんと鏡会に申請してダンジョンに入るのでしたら問題にはなりません。癒やしの力を持つ者はそう多くありませんが、ダンジョンの浄化を目的として探索者に力を貸している信者はたくさんいますからね」


「つまりそのなんとかいうのはひねくれ者の集まりということじゃな」


 小馬鹿にするようなスノウボウルの結論にヒサープは困ったような、同意するような、なんとも中途半端な顔をしてみせた。


「あくまでそう主張している一派がいるというだけのことです」


「癒やしの力を持つのは聖女に限られるからのぉ。聖女がいるチームは生存力が違ってくる。ワシらにとってありがたい存在じゃよ。ワシは断然、お嬢ちゃんの肩を持つぞ。それにジニアのチームなら、塔に一番近いと言えるかもしれん」


「そんなに褒められても酒はおごらないからな」


「なんじゃ、褒めがいのない奴め」


 とはいえササンクアをフォローしてくれたことには心の中で感謝しておく。


「問題なのはダンジョンの物を口にしてしまうことなのです。禁足派がそれを知ったら確実に面倒なことになると思います。ササンクアの聖女の称号をはく奪すべきと主張するのならまだしも、これ以上鏡会の者が穢れてしまう前にダンジョンを破壊してしまえと言い出しかねません」


「いくらなんでも無茶があるじゃろう。ワシらにどうやって生活をしていけと言うんじゃ……ん? どうしたんじゃ。顔色が悪いようじゃが」


「あ、いや。なんでもない」


 レプリケーターで作った料理を既にササンクアは口にしている。

 だからあの時に料理を戻してしまったんだな。


「もっとも聖女の称号はなくても癒やしの力は使えますし、むしろあの子にとってはそんな肩書はない方がいいのかもしれないと思っているんですけどね。ともかく、一度本人の気持ちを確認しておいてください。鏡会に戻らないというのならそれはそれでいいですから」


 何度も頭を下げてヒサープはギルドを後にした。


「どうするつもりなんじゃ」


「ちゃんと話をするよ。チームから抜けるっていうのなら仕方がないさ」


 むしろレプリケーターの料理について俺が謝らなければならないだろうな。

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