第138話 25 英雄、三人の成長の理由を知る
「このところ、みんなの成長が著しいのはそれも理由だったんだな」
食堂で出される食事を味気ないと感じている三人は、なにかにつけて俺が用意するレプリケーターでの食事を口にしてきた。
今や三人の装腕率は同ランクでも抜きん出ている。
ティアは下半身までアームドコートを装着しているし、ローゼルとササンクアの装甲はかなり分厚く、広範囲に及ぶ。
「それに貴族出身のアームドワーカーの装腕率が高い理由もわかった気がするよ」
探索者としての経験がほとんどない貴族の装腕率がやけに高いことがあるのが不思議だったのだが、食事が影響を与えていたのならば納得だ。
平民と違って貴族はダンジョンから持ち帰られたモノを口にする機会がある。
なにしろグレーパックの回収といった依頼を出すのはほとんどが貴族なのだ。
ダンジョンのモノを摂取し続けてきたから体内に蓄えた魔力素の量が多くなり、だからこその装腕率だったんだな。
「そのお話が正しいのなら、聖塔にいた頃からレプリケーターで食事をとり続けていたジニアさんはすごいことになっているように思うんですけど……」
ササンクアの言葉に肩をすくめた。
紋章がなくて召喚ができないのだから確かめようがない。
「体内に蓄えられる量は限りがあるとされているが、もし蓄積され続けていたらどうなるのだろうな。ある意味で楽しみだ」
「おいおい、脅すのはよしてくれ」
「ジニアのような例は私も知らない。だが少なからず魔力素の影響は出ているのだと思う。そうでなければアームドコートなしであの動きは説明できない。あるいは、私の知らない秘密がジニアにはあるのではないか?」
三人娘が揃って俺を見る。
別に秘密にしていることではないからな。
タンジーたちをはじめ、マグノリアやスノウボウルにも教えているし。
「なぜかノービススーツは纏えるんだよ。だからそれで全身を常に覆っているんだ」
「あれはあくまで外気と皮膚を遮断するために使う物ではないのか?」
「加えて適度に締め付けることで肉体を鍛え、筋力の補正などもしてくれる優れものなんだよ」
それからノービススーツを纏う時は全裸になって行うこと、常時維持することで効果が継続して得られることも話す。
「なるほど。ノービススーツにそのような効果があったとは知らなかった」
「そもそもノービススーツってなんなんだ。アームドコートのように魔力素が関係しているのか?」
「さて。そちらの研究は寡聞にして聞かなくてな」
「シショーは、アームドコートの、召喚、できるように、なる?」
ローゼルの緑碧玉のような大きな瞳が心なしか潤んでいるようにも見える。
シクモアは腕を組んで考え込む。
「……紋章を取り戻せば不可能ではないでしょう」
口を開いたのはミルフォイルだった。
額の真ん中につけた赤色の模様に指で触れてから俺を見る。
「ジニア様は塔から戻られた際に両腕と両足を失われていたそうですな」
「ああ」
あれで生きていたのは奇跡だったとあとで言われたのを覚えている。
もっとも俺は意識を失っていたので、自分がどういう状態だったのかよく知らないのだが。
「恐らくですが、これは癒やしの力で再生されたのではありません。神の御業によるものであれば元通りに復元されるからです。癒やしの奇跡を受ける前に得た傷も再生されるように。ですから紋章があれば紋章も元通りになっているはず」
「その通りだ。状態があまりに悪かったから鏡会で特殊な処理を受けたと聞いている」
「ほう。鏡会がね。関係者がいるところで口にするのもなんだが、あまりよい存在とは思えんな。なにしろダンジョンを破壊してしまえなどという過激な論を振りかざす輩もいるのだろう?」
ササンクアはなにも言わなかった。
ただ俯いて唇を噛みしめているだけだ。
「どうした。大丈夫か? 具合がよくないのなら部屋に戻って休んでいてもいいぞ」
誰しも自分が所属しているところを非難されて喜びはしないだろう。
「ぃ、いいえ。大丈夫です。すみません、ご心配をおかけして」
幾筋もの汗が額を伝い流れ落ちている。
とても体調がいいようには思えない。
「ペチューニア。ササンクアを部屋に連れて行ってやってくれ」
無言で頭を下げたメイドがササンクアの傍らに立ち、移動を促す。
「ほ、本当に大丈夫ですから。この話を最後まで聞かせてください。お願いします……」
「……わかった。無理はするなよ。まだ試合もあるんだからな」
「気持ちを落ち着けるお茶をお持ちします」
ティアの話によると、アストライオス家では具合が悪くなるとペチューニアのお茶で体調を整えていたという。
実際、気分を高揚させたり、眠気を催したりと、彼女の淹れてくれるお茶にはいろいろな効果があった。
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