第63話 英雄、無事を喜ぶ
「ハァハァハァ……ありがとう。助かったわ」
銀色の髪をおでこに張り付けたニモフィラは笑顔でそう言った。
大量のゴーレムに追われていたのは俺が前に所属していた〈
「ご無事でなによりでしたわ」
「よかった」
当時の俺の事情を知った双子はニモフィラに対してなんのわだかまりも持っていないようだった。
素直でいい子たちだと思う。
「意識を失っている方がいるのですか? 癒やしの力を使いますから、こちらへ連れてきてください」
「あー、いや。別にそのままでいいんじゃないかな。ただの体力と魔力切れだと思うし」
ニモフィラは呆れたような顔をしている。
「わたしたちがあんな目に遭ったのも全部こいつのせいなんだから。まったく。初めてダンジョンに潜ったっていうのに、わたしたちの話をなんにも聞かないんだもん。よく生きてここまで来られたわ」
「事実なだけに同意するしかありませんね」
キャトリアも眉根を寄せてニモフィラに同調した。
「お元気そうでなによりです」
愁いを帯びた顔でキャトリアが俺に頭を下げる。
「ああ。どうやらそっちは大変だったみたいだな」
「そう……ですね。少しだけですけど」
キャトリアはアームドワーカーとしての実力が特別優れているとは言えない。事実、シュートアームドでキャトリアよりも優秀な奴はいくらでもいるだろう。
だが他者を思いやることのできる心優しい女性であるのは間違いない。
「ケガはないか?」
「……ああ」
むっすりとした表情のタンジーの受け答えは簡潔だ。
相変わらずだな、お前も。
「じゃあ、互いの状況を報告し合うとするか」
まずは状況の整理から始めなければならない。
互いが持つ情報を出し合って、今後どうするかを決めるのだ。
「じゃあ、わたしたちのことから話すね。この前、ジニアたちの配信を見てた――」
ニモフィラの長い長い説明が始まった。
「……なるほど」
身振り手振りに加えて豊かな表情と台詞の再現をまじえたニモフィラの説明は大変わかりやすかった。
というか、新たに加わったメンバーに心底辟易していることは痛いほどに伝わった。
ニモフィラの説明に対して終始頷いていたササンクアたちの様子から、語られたことはすべて事実なのだろうというのも察することができる。
「なんというか……大変だったな」
俺たちの配信を見てボールサムがダンジョンへ挑戦すると言い出したこと。
自分一人で大丈夫だから手出し無用と一人先頭に立ってここまで来たこと。
忠告を無視してゴーレムを攻撃して大量の仲間を呼ばれて逃げていたこと。
三人の苦労がしのばれる話だった。
「ホントにね!」
事情を語っているうちにテンションが上がり切ったニモフィラは頬を上気させている。
先日会った時よりも顔の色つやはいいようだ。
「ニモフィラ」
「なに、ジニア」
「元気そうだな」
一瞬、こんな時になに言い出すのよと言いたそうな顔をしてから、くしゅりと笑う。
「まあ、そうね。どんなダメなヤツでも一人前になるまで面倒をみてあげるのが先輩探索者としての威厳――じゃなくて役目かなと思うようになったから。……ジニアを見習ってね」
「そうか。だがあまり先輩風を吹かせると嫌な顔をされるぞ。そうならないように俺も気を付けているつもりなんだが……」
言いながら三人を見る。
「ジニア様が偉そうにしていることなど一度としてございませんわ」
「うん。それに、シショーだし」
「いつも私たちのことを考えているのが伝わってくる言動をしてくれてますよ」
今のところ新人との付き合い方に間違いはないようでホッとした。
「だが地下三層まで実質一人で来られたっていうのもすごいな。実力は本物ってことか」
「ジニア、わたしの話をちゃんと聞いてた? あんなのぜんっぜん探索じゃないからね。ルートの検討も、罠の確認もお構いなし。ただひたすら距離的に一番近いルートを突き進んでただけなんだから」
「後先考えずに進むので、チームどころか自分の状況すら把握できてませんでしたね」
「そりゃ、ここまで一人で魔物を倒してきたのはすごいと思うよ。でもだからって相手がなにかもろくに確認しないで一方的に火力を叩きつけてただけなんだもん。そんなことしたら魔力があっという間に切れちゃうなんてアームドワーカーなら誰だって知ってるでしょ。まあ、知らない人がいたんだけどさ」
「ケガは本当にしてなかったのか?」
そんな戦い方でここまで来て無傷というのもすごいとは思うのだが。
「少なくとも見える範囲には。今は体力を回復するためにもこのまま寝ているのがいいでしょう。ただ気になったんですけど……」
ササンクアは言っていいものか悩んでいるようだった。
「なんでも言ってくれ。今は情報交換の場だからな」
「それでは。あの方はノービススーツを纏っていらっしゃいませんでした。そのことを伝えてなかったんでしょうか?」
あー、それねと言いながらニモフィラが笑う。
「あの人が、わたしたちの言うことを素直に聞くと思う?」
「……聞かないでしょうね」
「素直じゃありませんものね」
「うん」
三人にこんな反応されるとか、なにをしたんだあの男は。
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