第64話 英雄、状況を説明する
「じゃあ、次はそっちの番ね。ジニアたちはどうしてこんなところにいるの?」
「実は依頼を受けて――」
簡単に地下三層にいる理由と、この場に閉じ込められた経緯を説明する。
「そっか。ジニアたちも無事でよかったね。あと遅くなっちゃって、しかも今さらだと思うけど」
居住まいを正したニモフィラが三人に頭を下げる。
「あの時はごめんなさい」
謝られた三人はキョトンとしていた。
「あなたたちのキャプテンになっていたジニアに戻ってきてほしいなんて失礼なことを言いました。本当にごめんなさい」
三人は互いの顔を見たあと、そっと微笑んだ。
「もういいんですよ。頭を上げてください。そちらも大変だったみたいですね」
「そうですわ。ダンジョンへ入ることになった経緯も黙ってうかがっていましたけれど、相変わらずなんて傲慢で考え知らずな方なのかと呆れ果てましたわ」
「ロー、あの人、きらい」
ローゼルは冷たい目で横になっているボールサムを見ている。
普段はおっとりしているローゼルもこんな表情をするのかと驚いた。
俺がこの顔を向けられたら、しばらく立ち直れない自信がある。
「ニモフィラ。貴女、本当にジニアを呼び戻しに行っていたの?」
キャトリアの驚いたような声に、ニモフィラはケロッとした表情で頷く。
「うん。あっさり断られちゃったけど」
呆れたと言いたげな表情をしたキャトリアが俺を見る。
「結構、前の話だけどな」
俺たちが初心者向けの配信を始める前だから一カ月ぐらいになるか。
三人も笑ってやり過ごせるぐらいには過去の話だ。
キャトリアは深々としたため息をついている。
「ごめんなさい。あの時は私も賛成して……」
「いいんだ。難しい立ち位置だったんだろ」
「……ええ。その、ちょっと……ええ。本当に」
キャトリアは当時のことを思い出したのか眉根を寄せている。
「ジニアは新しいチームのキャプテンになったんでしたね。遅くなってしまいましたが、チーム結成おめでとうございます。いつも配信は拝見しています。いいチームですね」
「ありがとう」
「それなのにニモフィラったら本当に声をかけに行っていただなんて。ちゃんと止めておくべきでした」
「いや、いいさ。ああいう真っ直ぐさがニモフィラのいいところだしな。あの時は泣かれて大変だったが」
「ちょ、ちょちょちょっとぉ! そんなのみんなの前で言わないでもいいじゃない!」
顔を真っ赤にしているニモフィラが俺の口を塞ごうと襲い掛かってくる。
それをコロリと転がって回避する。
「ジーニーアー!」
フーと威嚇の声を上げるニモフィラが四つん這いになって俺を見ている。
いつからネコ科の動物になったんだ、お前は。
「落ち着きなさい、ニモフィラ。みんなが呆れているわよ。先輩探索者としての威厳とやらはどこへいってしまったの?」
「もう! なんでキャトリアはここでジニアの味方をするのよ。女の子の味方になってよ!」
「とりあえず落ち着け。あんまり大きな声を出すとあいつが起きだすぞ」
俺はチームから追放された時に少し話しただけだが、それだけでも尊大で嫌味な男だとしか思えなかった。
そんな奴が会話に加わると思うとげんなりする。
「あっ」
しまったと言いたげな顔をして口を押えている。
「大丈夫ですよ。今は私の魔法で眠ってもらっていますから。ゴーレムに殴られでもしない限り目を覚まさないと思います。もっともその時に目覚める場所はここではないでしょうけどね」
ササンクアが怖いことを言う。
っていうか、それは笑い話になっていないと思うのだが。
「ふーん。聖女さまの魔法って便利なものなのね。これからもずっと魔法をかけ続けてもらえないかしら。そうしたらきっと心穏やかに過ごせると思うんだけど」
「ダメよ。気持ちはわかるけど、そうもいかないでしょう」
キャトリアもさらりと本心が出てるぞ。
あの男、よほど嫌われているんだな。
「さて。互いの状況がわかったところで、ここから脱出をしようと思うんだが」
俺たちだけなら救助を待つべきだが、タンジーたちがいれば話は別だ。
戦力に不安はない。
あとはどうやって脱出すればいいかを考えるだけだ。
「救助を待たないのね。わかった。わたしたちはどう動けばいいの?」
そういえば〈
ダンジョンでの経験と知識を見込まれてスカウトされたのだから、それが当たり前だと思っていた。
「どうされたのですか? ジニア様のことですからなにか作戦があるのではありませんの?」
だが今の俺は〈
他チームのメンバーに直接提案をするのは間違っている。
「……すまん。ここはきちんと筋を通しておくべきだな」
頭をかいてからタンジーに向き直る。
こいつは話が始まってから、ずっと腕組みをしたまま座っていた。
「〈
まっすぐに目を見つめながら伝え、頭を下げた。
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