第62話 英雄、招き入れる

 10個のスクリーンを確保できたので、あとはここから帰るだけだ。


 問題はこの通路の出口が一つしかなく、そこは先ほどの大広間であり、おまけに巨大ゴーレムがまだ居座っていることだった。


「さて、どうしたものか」


「次は無茶な行動を控えてくださいまし。せめて事前になにをするか説明をしてからにしていただきませんと、わたくしたちの心臓が持ちませんわ」


「わかってる。さっきはすまなかったな」


 ちなみにローゼルは俺が飛び出していかないように腕をがっちりと抱え込んでいる。

 それどころか足を絡めて自由に移動することすらできない状態だった。

 どうしてこうなった……。


「まだゴーレムはそこにいるのか?」


「はい。まるで息もしていないみたいにピクリともしませんね」


 そりゃゴーレムだからな。

 生物のように呼吸はしていないだろう。


「ゴーレムには周回するタイプと、普段は彫像のように動かないタイプがいるのだとおじい様の本に書いてありましたわ」


 つまりあの巨大なストーンゴーレムは後者のタイプと考えられる。


「あいつが動き出した原因がわかるといいんだが……」


 ゴーレムが起動する原因としては、音に反応するとか、振動に反応するとか、近寄るとかいろいろある。

 それがわかれば回避するのは容易だ。


 巨大ゴーレムが動き出したところを思い出してみる。


「たしか大広間に出てから最短距離で抜けようと真ん中を突っ切ったんだよな」


「はい。しばらく進んだところで前方に見たこともないものがあるとジニアさんが警告を発しました」


「わたくしたちはすぐにミニフラッドライトの光量を押さえましたわ」


 光の範囲を絞って遠くまで照らせる状態のライトで前方を確かめようとした。

 その時だ。ゴーレムが動き出したのは。


「光が原因なのか?」


「私たちが近寄ったせいかもしれませんよ」


「そこまでの足音に反応したとは考えられませんの?」


 結論は出そうになかった。


 この通路の出口で動きが止まっているということは、俺たちにターゲットしたままの可能性も考えられる。

 つまりここを出た瞬間に起動して襲い掛かってくるわけだ。


「ジニア様はあのゴーレムを見たことはありませんの?」


「ああ。あそこまでデカいのは初めて見るな」


 これもまたダンジョン内の変化なのだろう。

 だが異変に気が付いたチームは他にいなかったのだろうか。

 こんなのがいると事前にわかっていればこの依頼は受けなかったのに。


 今の俺たちのランクでは持て余す相手だ。

 なにより俺には攻撃手段がなく、足手まといにしかならない。


「とりあえずギルドに報告をしておこう」


 生配信をすればギルドも気が付いてくれるだろう。

 その配信を見て救援隊を出してくれる可能性は高い。


 三人のことを考えるのならそれが一番だ。

 依頼の納品日を守れなくなるが仕方がない。

 生き延びることを考えるのならばこれが最良の選択だ。


 フェアリーアイを出そうとした時だった。


「なにか音がしませんか?」


「……する」


「ゴーレムが動き出したんですの?」


「いや、違うな。もっと細かい感じだ。それに数も多いな」


 複数の走っている足音のようにも聞こえる。


 通路のギリギリのところまで行き、大広間の様子を見る。

 照明で照らしたいが、こちらの位置も知らせることになるので暗闇に目を凝らす。


「……あれはなんだ?」


 遠くから揺れが近づいてきているようだ。

 それはドドドドドという地響きだった。


「嘘だろ……」


 大量の円筒型ゴーレムがこちらへ近づいてくる。

 10や20ではきかない数だ。


「見てくださいまし。ゴーレムの前を誰かが走っていますわ!」


 ゴーレムに追われているということは探索者か。

 危機に瀕しているチームを見捨てる訳にはいかない。


「こっちだ! 急げ!」


 ライトをつけて誘導する。


「ローゼル。俺が合図をしたら通路の壁を崩せ。ゴーレムが入ってこられないようにするんだ」


「いいの?」


「仕方がない。あの数を今は相手にしたくないからな」


「ジニア様! 大きなゴーレムが動き出しましたわ!」


「やっぱり俺たちをターゲットにしたままだったか。急げ! 近くにデカいゴーレムもいるから気をつけろ!」


 先頭を走る小柄な人物に見覚えがあった。


「中へ入れ!」


 驚いた顔をしながら俺の横を駆け抜けていく。


 どうやら一人が気を失っているようで、二人で抱えながら走っているらしい。

 通路から出て駆け出す。


「キャトリアかわれ! タンジー、走るぞ!」


 両サイドから男の肩を担いで走る。


 後ろから迫りくる音に振り返りたくなる衝動を抑え込む。

 通路に飛び込んだ。


「ローゼル、頼む!」


「うん!」


 アームドコートを召喚した状態でグルグル腕を回していたローゼルが壁に拳をめり込ませた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る