第15話 英雄、キメ台詞をとられる
その宣誓を聞いた瞬間、ギルド内のあちこちから盛大なため息が聞こえてきた。
「なんだよ。今回も塔に行かないのかよ」
「〈
「そういや前回優勝した〈
「マグノリアさんをバカにしてんじゃねーぞ」
「別にバカにはしてないだろ。ただ事実を言っただけで」
「前々回の大会で初優勝したときは勢いで塔に挑戦したけど実力不足だったんだよ。連続優勝した前回はまだ実力が足りてないって冷静な判断をしたんだろ。そのぐらい探索者ならわかれよ」
「いや、わかってるけどさ。でも二回連続優勝して、今回も決勝までいったチームだぞ。実力で言えば今あるチームでもトップクラスだろ。そこに勝ったんだから〈
愚痴めいた話も耳に入ってくる。
「どうして皆さんはあんなにもがっかりしているんでしょうか」
「それはダンジョンで見つかるアーティファクトが更新されないからですわ」
「アーティファクトの更新というのはどういうものなんでしょう」
「塔で発見された新たなアーティファクトは、それ以降、ダンジョンでも見つかるようになるという法則があるんですの。たとえばスクリーンはおじい様たちが塔から持ち帰ったアーティファクトの一つなのですが、それまではダンジョンで一度も見つかったことがなかったのです。ですがおじい様たちが持ち帰ったことにより今ではダンジョンでも見つかるようになっているのですわ!」
フェアリーアイやマルチブレスレットもかつて塔から持ち帰られたものだ。
「この先半年は新しいアーティファクトの入手ができないってことだから不満が出るのも仕方ないだろうな」
「それで皆さんが嘆いていらっしゃるんですね」
塔を目標とせず、ダンジョンに潜ってアーティファクトを回収することで生活している探索者も多い。
彼らにとってアーティファクトの更新がないということは需要の刺激がされず、新規の依頼がないということになる。
「そういえばジニア様はたくさんの古代遺物を塔から持ち帰られたのですわよね」
「ああ」
「どんな物があったのか聞いてもよろしいでしょうか」
「どういう効果があるのかわからん物が大半だぞ」
だから今でも王国の研究施設で解析が進められているはずだ。
「小さな黒い豆が入った瓶とか、よくわからない文様が描かれた筒状の物体とかなんかがあったな。豆は焦げ臭いがいい香りだった。一応、食べてみたがとても食える代物じゃなかったが」
「拾い食いみたいな行為は慎まれた方がよいのではないかと……」
「塔やダンジョンでは自給自足だぞ。食料なんてどこにも売っていないんだ。だから現地でなんとかする。これは――」
「『水と食料の確保。それが塔で生きていくための第一歩である』ですわね!」
「……そういうことだ」
その、なんだ。
せっかくの俺のキメ台詞をとっていくのやめてもらえないでしょうか。
あの本の受け売りが多いのは否定しないけどさ。
ちなみに塔から持ち帰った物の半分は国に納める必要がある。
だが何を納めるかは探索者側に選ぶことが許されていた。
もっとも、ほとんどは使途不明な品なのでそのまま国に納めて解析してもらうことになるんだが。
だから俺の手元に残っているアーティファクトの多くは既存の品だ。
ただし塔で入手できるアーティファクトは、ダンジョンで見つかるそれよりも高性能な場合が多い。
たとえばマルチブレスレットの地図機能を例にとると、ダンジョン製のは今いる階層しか表示できない。
だが塔で入手した俺のは上下一階層ずつ、合計三階層を同時に表示することができた。
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