第120話 07 英雄、協力を求める

 先輩風をビュウビュウ吹かせたニモフィラはドレス姿だというのに「実力を見てあげるわ」と宣言してストレリチアを連れて店を出て行ってしまった。


「あの子だけだと不安なので付き添ってきます」


 そう言い残してキャトリアも席を立つ。


 残された男二人でコース料理を片付けなきゃいけないってことか?

 それは勘弁してほしいんだが。


「ストレリチアのことを話した時点でチームに迎えることは決まっていたんだ」


「そうだったのか。向上心もあるし、いい子だ。よくしてやってほしい」


「もちろんだ。大いに期待もしている」


「この時期に駆け出しをチームに入れるってことは、今回の大会には出ないんだな」


「ああ。彼の成長次第ではあるが一年後の大会を目指してやっていこうと思っている。俺たちも探索者としての成長が必要だからな。あんたに教えて貰ったことをおさらいしながら一緒に成長していければ一番いいことだと思う」


「そうか」


 こういう稼業だからメンバーが欠けるのはままあることだ。

 今回のように探索中に命を落とすこともあれば、ケガなどを理由に引退するなど理由はいくつかある。


 その度に残った者は新メンバーを迎え入れてチームを作り上げていかなければならない。


 一人抜けたから次を入れてすぐに前と同じように動けるはずはないのだ。

 それはどんな優れた人が後釜に座っても同じだ。


 技能、知識、経験。すべてが違う存在なのだ。

 前任者がしていたことを全く同じにこなせるなんてありえない。


 人にはそれぞれ個性がある。

 得意とすること、不得意なこと。それらを把握してチームが一つになって動けるようになるには時間が必要だ。


 そして動けるようになったチームは前のチームとは別の存在としか言えない。


「もしよければなんだが――」


 歯ごたえしかない前菜を口に運びながら提案する。


「しばらくは俺たちの戦闘訓練に付き合って貰えないか」


 大会で必要になるのは対人戦闘だ。


 塔やダンジョンに仕掛けられた罠を解除するのでも、地図を見て目的地へ安全に向かうルートを選定するのでも、魔物と戦うのでもない。


 対人戦闘にはそれらと全く異なる技術と知識と経験が必要になる。


 俺たちのチームには経験が圧倒的に不足していた。まだ結成して半年も経っていないのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。

 技術と知識も不足しているが、これは個別に訓練することができる。だが経験となるとそうはいかない。


 大会を勝ち抜き、優勝チームとして塔へ行くのを第一手段にしているわけではない。

 俺たちが目指しているのは貴族たちによる推薦だ。

 ダンジョン探索で功のあったチームに与えられる塔へ続く道。こちらを狙っている。


 とはいえ戦闘能力が全く必要ないかと言えばそうでもない。

 塔でもどうしても避けられない戦いはある。だから一定水準以上の実力はあるのに越したことはない。


「それは願ったりかなったりだ。それにストレリチアの成長をその目で見たいだろうしな」


「意地の悪い言い方をするじゃないか」


「あんたの考えていることなんてお見通しだ――と言いたいところだが、実はキャトリアからそういう話があるかもしれないと言われていたんだ」


「キャトリアが?」


「なかなか面倒な経緯の子だそうじゃないか」


 そういえば彼女は貴族のゴシップに詳しいんだったな。


「なにしろ親の一人が塔に行ったままだからな。今はもう一人と一緒に暮らしているが、そっちの連れ子だと聞いている」


 俺も事情をよくは知らないが、フューシャの実子ではなく遠縁から引き受けた子だったはずだ。


「一度、親御さんとも挨拶をしておいた方がよさそうだな」


「そうしてやってくれ。よければ俺がセッティングするよ」


「助かる」


 それから三人が戻ってくるまでキャプテンとしての苦労話などに花を咲かせた。

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