第121話 08 英雄、大会についておさらいする

 朝食を終えてこれから個人の時間となる前にササンクアたちに声をかけて話を聞いて貰うことにした。


 金縁の真白いカップから立ち上る馥郁ふくいくたる香りを楽しんでから飴色をしたお茶を口に運ぶ。

 ペチューニアの淹れてくれるお茶はいつも美味しい。ブルーベルと一緒に家のことをなにからなにまで片付けてくれるので大いに助けられている。


「お話ってなんでしょうか」


「うん。大会についてどの程度知っているのか聞いておこうと思ってな」


「そのあたりはしっかり予習済みですわ!」


 腕を組んだティアが自信ありげに頷く。


「正式な名称は聖塔探索士選抜大会といって、年に二回行われていますの」


「なぜ二回か知ってるか?」


「それは年に二度、太陽が中天に差し掛かったタイミングでこの王国から影がなくなるからですわ。その一瞬だけ選ばれた者が塔へ足を踏み入れることを許されているんですのよ。だから大会はその二日に合わせて予定が決められているんですの」


 予習済みというのは本当のことのようだ。


「大会に参加するには四人一組でチームを組む必要があって、リーダーが2ポイント、他の人は1ポイントを持っていて、3ポイントを先取したチームが勝ちになるんですよね」


「じゃあ、シショーが、リーダーで、2ポイント?」


「キャプテンがリーダーになるとは決まってないよ。そこは試合ごとに決めることが許されている。だから防御力が高くてやられにくい守甲腕ガードアームドや後衛で直接攻撃を受けにくい砲甲腕シュートアームドがリーターになることが多いな」


「じゃあ――」


 ローゼルの視線がササンクアへ向けられる。


「クアが、リーダー?」


「相手チームもそれを予想してくるでしょうから逆手をとって別の人ということもありですわね」


「むむむ。むずかしい……」


 唸り声を漏らしたローゼルはこてんとソファーに横たわる。


「たくさんのチームが参加するんですよね」


「そうだな。まずは8つのブロックにわかれて総当たりの予選を行うんだ。各ブロックの上位2チームが決勝トーナメントに進むことができる」


「今思えば、前回のわたくしたちはよく予選を勝ち抜けたものですわね」


 ティアが複雑な表情をしているのは、勝ち進めたのはボールサムのお陰だと考えているからだろう。


 アームドコートの召喚ができるようになって間もなかったササンクアたち3人を引き連れて決勝トーナメントまでコマを進められたのは偉業と言ってもいい。


 前回優勝チームであるタンジーたちがボールサムに代わってストレリチアを入れたのを理由に大会へ参加しないことを決めたように、普通ならありえない出来事だったのだ。


 たとえササンクアたちに守りを固めさせ、3ポイントを失う前に自分一人で相手チームを倒し切るという強引な作戦だったとしても、それを成し遂げるだけの戦闘能力が彼にはあったのだ。


「このチームに合った作戦はどういうものかという会議もしないといけませんね」


「相手チームの得意とするパターンを分析して、リーダーは持ち回り制にするっていうのも面白いと思うんだがな」


「誰がリーダーかわからないのなら攻撃を分散させられるという考えですのね。面白いと思いますわ!」


「でも、最初に、リーダー、たおされちゃうかも?」


「だから対戦相手の分析をするんだ。真っ向から前衛をぶつけ合うのをよしとするのか、搦め手を得意として後衛を狙ってくることが多いのか。それがわかっていれば打てる手はいくつも考えられる」


「前回の大会でジニアさんがリーダーだったことはあるんですか?」


「ああ。実は何回か。意表をつけると思ってな」


 対戦相手にしてみれば、アームドコートのない俺がおいしい標的であるのは間違いない。


 それを真っ先に倒しに行くか、それともここぞというところで狙うのか。

 相手チームのこれまでの戦いからそれを読み、温存派だとにらんだ場合は俺がリーダーだったこともある。


「試合だけがすべてじゃないんだ。むしろ戦う前に半分勝敗は決まっていると言ってもいい。俺たちは挑戦者だ。経験も能力も足りていないんだから、たくさん頭を使おう。それはきっと塔の探索でも生きてくるはずだ」


「わかりましたわ!」


「練習、しないの?」


「するぞ。みっちりとな。タンジーたちに練習相手を頼んでおいた」


「やった! シハンに、ききたいこと、あったの」


「そういえばいつの間に必殺技なんて身に着けたんだ。キマイラを倒した時の一撃ってそうだよな?」


 ローゼルとティアが互いの顔を見つめ合い、それからくしゅりと笑う。


「いっぱい、練習した!」


「わたくしも手を貸しましたわ!」


 同じヘビィアームドのタンジーが放った必殺技を見た影響なのだろうか。

 しかしこの短期間で、いくらたくさん練習したとはいえ必殺技を身に着けるとは恐れ入るしかない。


「タンジーさんたちは大会に参加されないんですか?」


「ああ。ストレリチアを入れたから、しばらくは鍛えながらチームの連携力を高めていくそうだ」


「いいチームに入れて貰えたようでよかったですね」


「いつかライバルとして相対したいものですわね!」


「あ、そうだ。ストレリチアがアームドコートの召喚をできるようになったのなら教えてくれてもよかっただろ。たしかにサプライズにはなったけどさ」


 双子はしてやったりという顔をしている。


「ストレリチアさんはまだ戦えないでしょうから3対3での練習ですよね」


「そうだな。ローゼルの必殺技はササンクアのシールドに並んでこのチームのカギになるだろうから、しっかり経験を積んでくれ」


 唇を尖らせるティアを見て思わず口元が緩む。


「もちろんティアのスピードも頼りにしてるぞ。思い切りの良さを失うなよ」


「ええ、もちろんですわ! ご期待に応えてみせますわよ!」

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