第122話 09 英雄、模擬戦を見学する

「そこで下がるな! 前へ出るんだ!」


 装甲の厚いヘビィアームドが迫ってくるのは考えている以上にプレッシャーを感じるものだ。


 まして相手がトップクラスの実力を持つタンジーともなれば受ける圧力は桁違いだろう。


「くうぅ……」


 なんとか下がるのを一歩で堪えたティアは前へ出ようとする。

 しかしその出足は鈍い。それを見逃すタンジーではない。


 踏み込みを深くして予定よりも距離を縮める。

 そうなれば当然、ティアの想定していた距離とは異なる。

 ずっと近い位置まで迫られているのにティアは気が付いていない。


「あがっ!?」


 ショルダーチャージをまともに食らって吹き飛んだ。


「ササンクアのシールドがなかったら今ので終わってたぞ」


「ま、まだまだですわ……」


 地面に伏したティアが頭を振って立ち上がる。


「よそ見してていいの?」


 ローゼルと対峙していたニモフィラがあっという間に後ろに回り込んで首に腕を回している。


「い、いつのまに……」


「だからよそ見してた間にだよ」


 腕を解いたニモフィラはポンポンとローゼルの肩を叩いて離れる。


 いつもストレリチアが練習をしている広場で、俺たちは〈不屈の探索者ドーントレスエクスプローラー〉と対人戦闘の訓練をしていた。


 今はティアとローゼルが、タンジーとニモフィラのコンビと戦っている最中だ。


 俺たちのチームには制限が多い。


 そもそも俺はアームドコートの召喚ができないままだし、ササンクアは教義の関係で自分から攻撃することができない。


 実質、〈星を探す者スターシーカー〉で攻撃を担えるのはライトアームドのティアと、ヘビィアームドのローゼルしかいないことになる。


 つまりチームが勝つにはこの二人の攻撃能力に磨きをかける必要があった。


「ローゼルはもっと自分から動いてみたらいいと思う。待ち戦法も悪くないけど、それだと主導権を相手に握られっぱなしになるしね」


「うん。わかった」


「常に攻撃するという意識と思い切りは悪くない。もう少し相手の動きを見てどう出てくるつもりなのかを考えてみろ」


「わかりましたわ!」


 俺は少し離れた場所で2対2の様子を見守っている。


「はっ」


 気合いの入った声。

 ティアたちと反対側ではササンクアがキャトリアと模擬戦闘をしている。


 左へ向かってササンクアが跳躍した瞬間、土が跳ねる。


 後衛でチームのサポートをするガードアームドは砲甲腕シュートアームドの遠距離攻撃で狙われることが多い。

 だからササンクアの練習相手にキャトリアは最適だ。


「あっ!?」


 着地した足元を撃ち抜かれてバランスを崩した。

 動きが止まったところに集中砲火を浴びる。


「くぅぅ……絶対アンチ――》」


 咄嗟に両腕を体の前に伸ばしてアンチガードシェルを展開しようとしたがわずかに遅い。いくつかいい攻撃を貰っていた。

 試合なら今のは撃破判定が出るだろう。


「動いた先に攻撃が来たような感じでした。それで足が止まってしまって、立て直しを考えようとしたところにさらに攻撃を貰って……最後は魔法が間に合いませんでした」


「ええ。そのように誘導しましたから」


 キャトリアはシュートアームドの中でも特に遠い位置からの狙撃を得意とする。

 一撃の威力はランク相応だが、命中精度は5級には収まらないほど極めて高い。


 俺が〈不屈の探索者ドーントレスエクスプローラー〉に所属していた頃は、彼女の攻撃を基点に戦術を練っていたほどだ。


「みんなすごい……」


「集中してないと装衣ノービススーツが解除されてまた丸裸になるぞ。ティアたちに見て貰いたいのか?」


 俺の隣ではストレリチアが全身にノービススーツを纏う訓練をしている。


 アームドコートの召喚ができるようになったとはいえ、基礎であるノービススーツを全身に薄く纏い続けることができなければ一流の探索者にはなれない。


 ティアやローゼルは数日でそれをモノにしたぞと教えてやると、ストレリチアは大いに奮起した。


 だが力み過ぎているようで纏ったノービススーツは肌が透けて見えないぐらい厚い。

 それでは長時間の維持は無理だ。


 自分の感覚でコントロールするもなので、こればかりはちょうどいい塩梅を見つけて貰うしかない。


「ぐぬ、ぐぬぬ……」


「力を入れるんじゃなくて抜くんだ。自然に、呼吸するみたいに纏ってみろ」


「リラックスすればいいんだよね? リラックス、リラックス……」


 リラックスすることを意識している時点でリラックスはできないのを知る必要がある。

 だがこれもまた自分で気づくしかないのだ。

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