第123話 10 英雄、反省会を見守る

 訓練を終えれば俺の家へ戻り、反省会と食事をする。

 なお、この食事を作り出す複製器レプリケーターの材料はタンジーから提供されたものだ。


 大きなテーブルとはいえ、さすがに8人も座るとなると狭く感じるが仕方ない。

 いつも以上に賑やかな食卓だった。


「射線が通らない位置を常に意識するといいと思います。そのためには自分がシュートアームドだったらどこから、どこを狙うかを考えてみるといいのではないでしょうか」


「一撃必殺を狙ってますっていうのが見え見えなんだよね。だからブラフもまぜてみたらいいんじゃないかな。そうしたら相手はいつ必殺技がくるかわからないでしょ」


「真正面からヘビィアームドとやり合おうと思わないことだ。ライトアームドにはライトアームドの戦い方がある。まずはそこを考えるといい」


 タンジーたちのアドバイスに、ササンクアとティアは食事の手を止めて真剣な表情で耳を傾けている。

 ローゼルだけは口をもぐもぐさせながら聞いていた。


「シュートアームドはキャトリアさんのような長距離から狙撃するタイプや、相手の懐に入って乱射するみたいなタイプがいますよね。射線を意識するのは前者のみではなく、後者でも同じように考えるべきなんでしょうか? あとは魔法を組み合わせることができればより効率的な動きができると思うんですが」


「ローは、はやく、動けないけど、もっと、動いてみる。それから、いろんな、攻撃も、する」


「後ろに回り込もうとしてもすぐに対応されてしまうのではないかと思ってしまうんですの。それなら最短距離でとつい考えてしまうのはよした方がよいのかしら?」


 今日の訓練で感じたことを伝え、改善するにはどうすればいいかを話し合う。


「ジニアは参加しないでいいの?」


「直接手合わせした相手の意見っていうのはすごく貴重なものだからな。外から見ていて気が付いたこともあるにはあるが、今はこれでいい」


「ふーん。でも僕がジニアを独り占めしてるみたいで申し訳ない気がしちゃうんだよね」


 まだ駆け出しでアームドコートも安定しないストレリチアは自分の訓練か見学しかしていない。


「その分、基礎をみっちり俺が見てやるからな。言っておくが厳しいぞ?」


「あはは。それは知ってる。でも嬉しいんだ。ジニアに教えて貰えて。ティアやローゼルは僕と同い年だ。今は先に行かれちゃってるけど、いつか絶対、追いついてやるんだ」


 そういう負けん気の強さはいい傾向のものだ。

 妬むのではなく、誰かを目標として追いかけられるのは大切な資質だと思う。






「この分だと3対3の練習は少し先になりそうだな」


 ニモフィラとキャトリアはストレリチアを家に送りがてら自分たちの拠点へ戻っていった。

 ササンクアたちもそれぞれの部屋で今日の疲れを癒やしている。


 テーブルを囲んでいるのは俺とタンジーだけだ。

 酒を用意して貰ってからはブルーベルたちにも部屋に下がっていいと伝えてあった。

 今は大人の男の時間だ。


「個々の戦闘能力はある。連携がなんとかなれば予選は突破できそうだ」


「なかなか高い評価だな」


「実際、前回は予選を勝ち抜いているしな。キャプテンが一人で相手を倒していたとはいえ、それまで彼女たちは撃破判定を受けずにいたわけだ。相応の実力はあると見る。条件が揃いさえすれば勝ち抜るだろう。問題があるとすれば――」


 言葉を切って俺を見る。


「あんたの考えた作戦を実行できるだけの能力が俺たちにはあった」


「そうだな」


「俺たちと彼女たちの能力を比べれば……いいところ半分か。構成も少し異なるが。それでどう戦い抜くつもりだ」


 酒を口に含んで湿らせる。


「基本はあまり変わらんと思う。俺を囮にして逃げ回っている間に三人でポイントを稼ぐ。逃げ足には自信があるからな」


 アームドコートがなくても攻撃が当たらなければ問題はない。

 要は撃破判定を貰わなければいい話だ。


「だがその戦い方はみんながもう知っているぞ」


 大会の様子は生配信されている。

 だから俺がアームドコートの召喚ができないことも、自分を囮にした戦い方をしていることも知られていると考えるべきだ。


 そして恐らく、今のチームではササンクアのシールドを頼りにした立ち回りをしているのも知られているはずだ。


「知っているのなら対策をしてくるだろうな」


「当然だ」


「なら、それでいい」


 タンジーはため息をつきながらカップを置いた。


「それは悪いことを考えている顔だな」


「悪いこととは失礼な。勝つために必要な手を打つだけさ」


 笑いながらグラスを傾けた。

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