第119話 06 英雄、引き合わせる
「そんなに緊張しなくてもいいんだぞ」
「う、うん……」
ストレリチアは借りてきた猫のように大人しい。
時折、周囲をキョロキョロと落ち着きなく見渡している。
今日はストレリチアをタンジーたちに引き合わせる約束になっていた。
せっかくだからと少しお高い店をセッティングしたのは俺なりの気遣いだ。
料理が薄味なのは変わらないが、普段、口にするモノよりは変化を楽しめると思う。
俺は休日の普段着だが、ストレリチアは場所に合わせたのか気合いの入った格好をしていた。
さっきから落ち着きがないのは着慣れていないのもあるのだろう。
しかし中身がいいからなのか、ストレリチアがそんな格好をしているといっぱしの男に見えるからうらやましいものだ。
「遅くなったな」
その声を聞いた途端、ストレリチアの背筋が伸びる。
「俺たちも少し前に来たばかりだ。さあ、座ってくれ」
空いていた席にタンジー、キャトリア、ニモフィラが腰かけた。
皆、小綺麗な格好をしている。
こういう場だからもう少し俺も考えてくるべきだったかもしれない。
とはいえ適切な衣装の持ち合わせなどないのだが。
このあたりの気遣いがどうにも苦手だという自覚はある。
ティアたちが事前にこのことを知っていたらいろいろとアドバイスをしてくれていただろう。
視線に気が付いて顔を上げると、キャトリアが俺のことを見つめていた。
落ち着いた色合いの服をすっきりと着こなしているところはさすが貴族令嬢と言ったところだろうか。
キマイラによって負った傷はすっかり癒えており、彼女の顔は元通り美しいままになっている。
「あのときは助けていただいてありがとうございます」
「傷が残らなくてよかったよ」
キャトリアは穏やかな微笑みをたたえたままだった。
「ふーん。この子なんだ」
今日のニモフィラは銀髪を結い上げて、薄い青のドレスを着ている。
貴族どころか王族の血を引いているのを知ったせいだろうか。よく似合っていると思ってしまう。実際、似合っているのだが。
というか本当に今の王様の娘なのか。
いまだに信じることができない。
「……なに?」
「その衣装も似合うと思っただけだよ」
満更でもないようにフフンと笑う。
もっともテーブルに肘をついた状態というのはテーブルマナー的にどうなのかと思うが。
「若い子だけど、本当にいいの?」
「この場ではお前が二番目に若いのをわかっていてそれを言うのか」
「つまりわたしはこの子よりもお姉さんってことでしょ? それになにか問題が?」
ないけども。
「本人の意思だけじゃなく、家族も探索者になることを認めているからな。そういう意味ではなんの問題もない」
「よ、よろしくお願いしますっ」
ストレリチアが頭を下げると、ゴンという音がした。
思い切りテーブルに頭をぶつけたようだ。
おでこを押さえながら目に涙を浮かべている。
「っぷ、くく……や、やるわね……」
ニモフィラは唇を噛みしめながら笑うのを堪えていた。
「ジニアの話によると、まだアームドコートの召喚ができないそうだが」
タンジーの確認の言葉にストレリチアが慌てるように首を横に振った。
「い、いえっ。できるようになりました!」
「そうなのか?」
「はいっ。昨日、ティアたちと練習していたときに初めてできました!」
そんな大事なことをなぜ俺に話してくれなかったのだろうか。
思い返せば、昨日の夕食以降、どことなく二人の様子がおかしかったようにも思う。
あれはこのことを隠していたからではないだろうか。
眉根を寄せて考え事をしていると、恐る恐るという感じでストレリチアが切り出す。
「今日のことがあるから内緒にしておこうって言ってました」
サプライズというわけか。
たしかにびっくりしたけども。
「そうだったのか。ともかく、おめでとう」
祝福の言葉に、はにかむように俯く。
「ねえ、アームドコートの種類を教えてよ」
「あ、はい。ヘビィアームドでした」
「じゃあ、タンジーと同じだ。どうする?」
「別に被っていても問題はないと思いますよ」
「前衛をタンジーと組んで貰って、わたしはキャトリアの護衛かな? 遊軍って感じに動いてもいいけど」
「そのあたりはケースバイケースだと思いますよ。動き方は相手の出方によっても変わりますし」
「それもそうだね。じゃあ、行こうか」
言いながらニモフィラが立ち上がる。
「……え?」
「君がどのぐらいできるかを見せてよ。実力がわからないとわたしたちも困るし」
「それって……」
困惑したストレリチアが三人の顔を順番に見る。
「あ、そうか。ちゃんと言ってなかったね」
ふわりと笑ったニモフィラが右手を差し出す。
「ようこそ、わたしたちの〈
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