第141話 28 英雄、下準備をする
本選への進出は既に決めているが、これに勝てば次の相手は別グループの2位通過したチームとなる。
2位だったからといってチーム力が俺たちより劣るとは限らないが、優勝を目指すのならば少しでも与しやすい相手であるのが望ましい。
「まずは目の前の相手に集中だな。簡単には勝たせて貰えないだろうし」
4大会連続で決勝進出を狙うマグノリアが率いる〈
ヘビィアームド四人編成というピーキーなチームにもかかわらず安定した成績を残しているのはそれだけ戦術が練り上げられている証拠だった。
今大会も危なげなくここまで勝ち続けている。
「大丈夫ですわ。勝つためにいろいろと準備をしてきたのですし。『勝利とはそれを望み、奮起する者のところにのみやってくる』とおじい様も本に書いてましたもの」
正直、チューベローズたちのやり方は俺にとっても目から鱗だった。
大会は戦闘能力を比べる場所だという思い込みがあったから、ああやってトラップを作成して自分たちが有利な状況に相手を引きずり込むということすら思いつけなかったのだ。
運営からのお咎めもなかったことから、あれも立派な戦い方の一つなのだろう。
それならやりようはいくらでもある。
「ジニアさん。目的の場所は当初の予定通りで構いませんか?」
「ああ」
事前に立てた作戦はこうだ。
遮蔽物の多い場所へ先に到着してトラップを設置し、そこへ相手を誘い込む。
その候補としては建物が密集する地域か、森の中が望ましい。
どちらも視界が通りにくいこと、障害物を攻撃や防御に利用できることがその理由だ。
「じゃあ、もりに、いくよ」
先頭を走るローゼルに続く。
今いる場所から距離的に近いのは森だ。
まずはそこへ先にたどり着きトラップの準備をする。
マグノリアたちの強さは四人が常に集団で動いているところにある。
それならば障害物を利用して分断することで勝ち筋を見つけるしかない。
孤立していればかなわない相手ではないはずだ。
森に入り、少し奥まで進む。
事前に目星をつけておいた木があまり密集していない場所に出る。
ここなら真っ直ぐに走り抜けるのは難しい上に、大きな体だと木が行動の邪魔になる。
ヘビィアームドのパワーがあれば強引になぎ倒すこともできるがそれなりに労力が必要になるはずだ。
「よし。ここでいい」
「それでは、わたくしは偵察へ出ますわね」
「気をつけろよ」
「見つからないように動きますからご安心くださいませ。こちらの準備が終わりましたら合図をお願いいたしますわ。上手に誘導してみせますの」
「頼んだぞ」
頷くとティアが駆け出す。
彼女にはマグノリアたちの動向を把握して貰い、ここまでの誘導を任せてある。
「さあ。俺たちも準備を進めるぞ」
ササンクアとローゼルがそれぞれのストレージや背嚢から道具を取り出す。
あまり時間はないので手間のかかる工作はできないが、足首の高さにワイヤーを張ったり、穴を掘ってその上に草を被せて隠すことぐらいはできる。
決めておいた役割を黙々とこなす。
「こちらの準備は終わりました」
「ローも、おわった」
大きくしならせた若木を固定したところで俺の作業も完了する。
「あとはここに誘い込むだけだ。合図を送るぞ」
ストレージから短い筒を取り出す。
これは先端を擦ると大量の煙を発生させる
ダンジョンでは魔物から逃げるときの目くらましに使ったり、広い部屋を煙で分断したりするのに使う。
狭い部屋ならあっという間に視界が利かなくなるほど煙が発生してくれる便利なアーティファクトだ。
今のように開けた場所なら高くまで煙が昇るので視認しやすいはずだ。
シューという音とともに白い煙が発生する。
幸いなことに風もなく、ゆっくりと煙は上へ上へと伸びていく。
「二人も準備をしてくれ。ティアがここまで誘導してくれるはずだ」
■設定資料
・
10センチほどの筒状の物体。先端を擦ると煙が発生するアーティファクト。
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