第140話 27 ボールサム、順調に勝ち進む
「我らに工夫など不要。優れた血を受け継ぎし者はそれに相応しい振舞いをただすればよいのです。いいですか。相手を蹂躙するのです!」
力強くそう宣言をするとボールサムたちは正面から相手チームとの戦端を開いた。
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ボールサムを含めた三人がシュートアームドであり、一人は聖塔神鏡会からやってきた癒やしの奇跡を使える聖人である。
「ヘリオトロープ師はこれまでと同じく、ご自身の身を守ることに専念してください」
「お言葉通り自分の身を守るといたしましょう。癒やしの奇跡が必要であればいつでもお声がけください」
「その機会はこれまでと同じくないと思いますがね」
貴族であり聖人でもあるヘリオトロープ・ブルーワンは教義の関係もあって自分から攻撃することができない。
しかしガードアームドとしての実力は高く、また物理攻撃を受け付けない
一度その力を使えば何人たりともヘリオトロープを物理的に傷つけることはできない。
試合で倒されると2ポイントとなるリーダー役をヘリオトロープにしておけば、ボールサムたち三人が倒されない限りこのチームが負けることはなかった。
「踊れ踊れ! もっと楽し気に踊ってみせよ!」
両掌を交互に突き出すようにして立射しているのはカレンジュラ・ヨンナムだ。
幼い頃からボールサムに下男のごとく付き従っており、本人は彼の右腕を自認している。
カレンジュラが放った魔力弾は小さめの卵サイズほどあり、着弾すると周囲に破片をばら撒く。
絶え間ない攻撃により相手チームは移動できる先が限られてしまう。
足が止まったところを狙い撃つのはファックスグラヴ・トウセイだ。彼もまたボールサムとの付き合いの長い男だった。
自身が優位である限りはいつでも調子がよく、そういう時は過度の加虐性を見せることが多い。
「どこへ逃げるのだね。早くしなければ――ほらっ。足を撃ってしまったぞ。次はどこがいい? 腕か? 腹か? それとも頭か? 逃げろ逃げろ! ははは。そこはまだ俺の狩場だぞ」
多くのシュートアームドと同じく離れた場所から狙撃するのを得意としており、まるで狩りの獲物をなぶるかのような攻撃を続けている。
二人ともダンジョンでの探索経験は皆無なのでギルドには登録していない。
そのため正式な形で段位を受けているわけではないが、最低でも6級クラスの腕を持つとボールサムはみている。
ただしそれは純粋な戦闘能力だけの評価だ。
平均的な探索者と同レベルの探索能力があると仮定すれば4級は固いだろう。
戦闘能力だけで3級だったボールサムには及ばないまでもかなりの実力者だと言えた。
それ故、生半な探索者では二人の連携攻撃を潜り抜けるのは難しいと言わざるを得ない。
「ははは。これでは今回も私の出番がないではありませんか」
「汗をかくのは我々にお任せください。もっとも汗など一つもかいていませんがね」
「まったくまったく。これではライオンやヒョウのほうがよほど狩りとして楽しめるというもの。少々、退屈ですなあ」
「卿らの軽口はいささか過ぎますね」
ボールサムの言葉に二人は口をつぐむ。
「――あんなのと比べてしまったら、ライオンやヒョウに失礼と言うものです」
三人は高らかに笑う。
リーダー役を鉄壁の防御力を誇るヘリオトロープに任せることで、ボールサムたちは自由に動き回り、有利な場所、好きな形で戦いに持ち込むことができる。
シュートアームドの強みは離れていても戦えるところにある。
もっともボールサムのように近接を得意とするタイプもいるが、一般的なシュートアームドはこの形が強いのだ。
しかも範囲攻撃のできるカレンジュラと狙撃に特化したファックスグラヴの組み合わせもよい。
これまでの戦いはすべて一方的な形で勝ち切ってきた。
「これならなれるでしょうね。私たちが聖塔の守護者に」
平民を聖なる塔へ立ち入らせてはならない。
彼らは大人しく暗く薄汚いダンジョンを這い回り、貴族のためにアーティファクトを回収すればいい。
貴族たちは平民の探索者たちに仕事を与え、探索者は貴族へアーティファクトを差し出す。
これこそ両者にとって満足のいく形であると言える。
「しかし予選の最終戦まで出番なしというのは退屈が過ぎます。私も出ますよ」
「ご存分に活躍してくださいませ」
「平民どもにボールサム様の力を見せつけなければなりませんからな」
二人が攻撃の手を止める。
「では、いきますか」
力強く地面を蹴ってボールサムは駆け出した。
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