第46話 英雄、依頼に悩む

「こちらが報奨金となります」


「ありがとう」


 パチェリィから受け取った袋は相変わらず結構な重量があった。


「今回の生配信もよかったですね。手に汗握ってギルドのボードで見てましたよ。皆さんも一緒になって盛り上がってましたし」


 生配信を見てもらえるのは嬉しいが、パチェリィはギルドの仕事をすべきなのではないだろうか。


「そんなにか。やっぱりあの三人が活躍しているところの配信は人気なんだな」


「そうですねえ。皆さん、保護者気分で見ている気がしますよ。頑張れ頑張れの大合唱でしたから。三人とも可愛いから気持ちはよーくわかるんですけどね。ここだけの話、彼女たちを狙っている人もいるんじゃないでしょうか」


 応援をもらえないよりはいいんだろうが、そのうち変な風に絡まれないか不安になる。

 なにか対処方法を考えておくべきか。


 双子は貴族が暮らすエリアに屋敷があるが、ササンクアは平民街に宿を借りて一人で寝泊まりしていると聞いているから心配だ。


「ちなみに宝箱にスクラップバーしかなかったところは大ウケでしたよ。皆さん、お腹を抱えて笑ってました。私も笑ってしまいましたけど。ふふ」


 だろうな。あれだけ見事なオチもなかなかないだろう。


「ところで俺たちについて聞いてくる奴はまだいるのか?」


「いますよ。今日だって何人かに聞かれていますし。もちろんプライバシーに関することは一言も漏らしていませんから安心してください」


「これからもそれで頼むよ。こんな形で目立つのは想定していなかったからな。妙な連中に目をつけられないといいんだが」


「ギルドは不特定多数の方が出入りしていますからね。私たちの目の届かないところはどうしても出てきてしまいますし……いっそのことチームで拠点を確保されてはどうですか? それならジニアさんも安心できると思いますけど」


「拠点か……」


 要するにまとまって生活できる場所を確保したらどうかというわけだ。

 それならいつも一緒に行動できるからなにかあった場合に対処しやすくなる。

 一度、みんなに相談してみよう。


「あ、それからおめでとうございます。ササンクアさんとローゼルさんはこれまでの実績が認められて一ランクアップになりました。ダンジョンに潜るようになって一カ月ほどなのにすごいですね。やっぱりジニアさんの指導がいいからでしょうか」


 つまりササンクアとローゼルは6級になったのか。

 これでティアと同ランクになったわけだな。

 それはめでたい。なにかお祝いをしなくては。


「ただジニアさんについてはその……」


「俺のことはどうでもいいんだ。いや、どうでもいいわけではないんだが、評価しにくいってのはわかってるからさ」


「すみません。正直、ギルドマスターも困っているみたいなんですよね」


 そりゃ肝心のアームドコートが召喚できないままで探索者を続けているからなあ。

 俺が同じ立場でも扱いに困っていたと思う。


「そういえば、ジニアさんたちのノウハウ配信のお陰で無謀なタイムアタックをするようなチームがほぼなくなってくれたんですよ。ありがとうございます」


「それについては俺たちの生配信が原因だったと言われていたからな……痛しかゆしってところだ。でもまあ、無謀なことをする奴らが減ってよかったよ」


「最近はジニアさんたちのチームに商品アピールをしてもらいたいから紹介してほしいとか、指名依頼を受けてほしいとかいろいろ来ていますよ。すっかり人気チームですね」


 商品アピールっていうのは、探索者に開発中の商品を使ってもらってその性能を多くの人に知ってもらう配信をしてほしいっていう類の依頼だ。

 いい道具をいち早く使わせてもらえるというのはメリットと言えなくはないが、試作品なので期待通りの性能が出るかわからないという側面もある。


 指名依頼はそのままの意味だ。ギルドの掲示板を介さずにチームへ直接依頼をする。

 特定のチームにしかクリアが難しい案件などを頼む時に使われることが多い。

 例えば深い階層でしか得られないアーティファクトの回収を上級のチームに依頼するなどだ。

 ある意味、探索のノウハウを生配信してほしいっていうのも指名依頼と言えるだろう。


 前者は配信の閲覧者数が多くなったのでわからなくはないが、後者は地下三層に足を踏み入れていない俺たちのチームに来るような話ではないはずだが。


「今の俺たちに指名依頼ってのはなんか胡散臭いな」


「そう思われるのも仕方がないですよね。トップクラスの探索チームというわけではありませんし。でも内容だけでも聞いておくのはいかがですか?」


 意外なことにパチェリィはこの件を前向きに受け取っているようだ。


「理由を聞いても?」


 少し思案してからパチェリィが口を開く。


「現段階で公開できることとしては、これまでにギルドへ何度か依頼を出されている方であり問題は一度もなかったこと。それから難易度としてはジニアさんたちのチームに釣り合っていると思われること。最後に公共性が大きい内容といったところでしょうか」


 難易度が釣り合っているとギルドが判断しているのなら、現時点で困難でとても無理という案件ではないのだろう。


「わかった。一応、みんなに聞いてみる。返事はそれからでいいかな」


 あとは拠点についてだな。

 少なくとも三人が一緒に暮らせる場所を確保したい。


「はい、結構です。よろしくお願いしますね」

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