第45話 ボールサム、決断する

『成長が見えるシーンとしてボクがあげたいのはまずここです。ライトアームドのフォーサイティアがミノタウロスへ無言で突っ込んでいっているんです。これまでは可愛い掛け声をあげながらだったんですよね。それでいつも相手に気が付かれて不意打ちのチャンスを逃していたんですけど。いや、一概にそれが悪いわけじゃないですからね。相手を確実に倒すんだっていう気概は大切なんだと思います』


 映像には正面からミノタウロスに肉薄していたライトアームドの姿が消え、次の瞬間には背後に回り込んでいるところが映し出されている。


『でも彼女はあくまでオトリ。視線を誘導するのが役目なんですね。本命はこちら』


 後頭部を蹴られてミノタウロスの体勢が崩れたところに、遅れて接敵した仲間が待っている。


『ここで相手の攻撃手段を奪う一撃。ヘビィアームドのローゼルの攻撃力はチームでも一番なんですが、相手の動きが速かったり的が小さかったりすると空振りが多かったんです。でもしっかり足を止めて腰を落として攻撃を繰り出しています。ここが成長ポイントの二つ目』


 痛みを忘れて暴れるミノタウロスの背中を駆け上がったライトアームドの手刀が角をへし折る。


『二人とも乱暴に振り回す腕を恐れることなく近距離で戦っています。これはきっと、ササンクアのガードアームドのシールドに絶対の自信があるからでしょう』


 最後はヘビィアームドの拳がミノタウロスの頭を打ち砕いていた。


『ここまで流れるような美しい連携でした。初めての配信の時、彼女たちはミノタウロスに近寄ることすらできませんでしたが、それがわずか一カ月でここまでやれるようになるとは誰が思ったでしょう。素晴らしいですね』


 計算され尽くした実に見事な連携だった。

 チーム力の高さがわかる。


『これまで配信されてきたノウハウ系の映像を順番に見ていけば彼女たちの成長をより詳しく見ることができますよ。このシリーズ、ボクのいち――』


 映像が途切れる。


「ふん。こんなもの、面白くもなんでもないではありませんか。これが一番人気の配信とは片腹痛い。くだらない配信を見るのは時間の無駄です。もっと有意義な時間を過ごすべきでしょう」


 苛立った様子でボールサムは髪をかき上げている。


「あなたにあれができるっていうの? ダンジョンに入ったことすらないのに」


 ニモフィラの冷たい声にも最近慣れてきた。


「無論できますとも。そもそもできないはずがないでしょう。なにしろ己は上級のアームドワーカーなのですから」


「そう? 前は映像がフェイクだって言ってたように思うんだけど」


「その点については己の思い過ごしであったと認めましょう」


 実に傲岸な態度である。

 過ちなど微塵も認めているようには見えない。


「見てみたいものね。上級のシュートアームド様の華麗な活躍というやつを。生配信したらあっという間に人気になれるんじゃない?」


「それは以前にも言ったではありませんか。高貴なる貴族である己がダンジョンのような不浄な場所へ足を踏み入れることなどありえないと」


「ただ臆病なだけなんじゃないの。私たちも貴族だけど、ジニアと一緒にダンジョンで鍛錬を積んできたわよ」


「はっ。だからですか。卿らが薄汚れて見えるのは」


 ひと際強い目でニモフィラが睨みつける。


「まあまあ。仲間同士で角つつき合わせても仕方がないでしょ」


 キャトリアがとりなすが、ニモフィラはそっぽを向いているし、ボールサムは面白くなさそうな顔で果実酒を飲んでいる。


 大会が終わって一カ月以上が過ぎようとしているにもかかわらず、チームはろくな活動をしていなかった。

 戦闘訓練をするわけでもなく、ダンジョンに潜ることもない。

 ただ無為な日々を過ごすのみ。

 むしろ大会で優勝したにもかかわらず塔へ挑戦をしなかったことに他の探索者から不満が出ている有様だった。


 一方、かつての仲間は新しいチームで着実に実績を積み上げている。

 明らかに経験不足だった仲間の動きも見違えるようだ。


 またダンジョン探索のノウハウを配信することで注目もされている。

 半年後の聖塔への挑戦者として貴族たちの推薦を受けるのではないかと囁かれているほどだった。


「わかりました。いいでしょう」


 グラスをテーブルに置いたボールサムが立ち上がる。


「己の実力を見せてやりますよ。ダンジョンなぞ容易に攻略できることを証明してみせましょう」

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