第6話 英雄、師匠と呼ばれる

 翌日。

 街のはずれにあるダンジョンの南側入り口に集合した。


「どうだ。ノービススーツの常用はできてるか?」


「昨日に比べれば楽になった気がします」


 ササンクアの表情からも余裕があるのがわかる。


「ご覧になりますか?」


 ティアは人目もはばからずスカートを大胆にめくってみせる。

 むっちりした足には肌が透けるほど薄くノービススーツを纏っていた。


「ちょ、ちょっと! そういうのはいけません!」


「別に構いませんわよ。見られて減るものでもございませんし」


「たしかに減りませんけど、もう少し淑女としての恥じらいを持ってください」


 ついと袖が引かれる。


 俺の隣に立ったローゼルが上着の襟元に指を入れていた。

 細い首から肩にかけて半透明になったノービススーツが見えている。

 ついでに深い谷間まで見えている。


 ゴクリと生唾を飲む音が聞こえたのは気のせいだと思う。


「シショーの、言ったとおり、した」


「ししょー?」


「ローゼルはジニア様のことを師として尊敬しているのですわ」


「そんなたいしたものじゃないぞ、俺は」


「なにをおっしゃるのです。そもそもあなた様は塔から帰ってきた英雄ですのよ。それだけでも師として仰がれるのは当然ではありませんの」


 塔からの生還率は決して高いとはいえないが、俺以外にもいるんだぞ。


 なによりローゼルたちの祖父からして英雄じゃないか。


『いよいよ今回の聖塔探索士選抜大会も決勝となりました!』


 近くにある巨大映像幕スクリーンに人気の実況者ゴールデンロッドが映し出されている。


「そういえば今日は大会の決勝があるんだったな」


 大会はフェアリーアイを通じて生配信される。


 ダンジョン探索とはまったく違う対人戦闘が見られるので人気コンテンツになっていた。


『ここで残念なお知らせがあります。〈不屈の探索者ドーントレスエクスプローラー〉にメンバー交代です。1年前に塔から帰還した英雄ジニア・アマクサに替わり、元〈高貴なる純血者ノーブルブラッド〉のキャプテン、ボールサム・チュウゲンが参加となりました』


 スクリーンの前にたむろしている人たちがざわついている。


『ボク、個人的にも応援していたんですよ。だって2年も塔にいてたくさんのアーティファクトを持ち帰ったあの英雄が塔へ再挑戦を決めたってだけで燃える展開じゃないですか。しかもアームドコートが召喚できない状態にもかかわらずチームの戦術を磨き、戦闘では自身を囮にしてここまで勝利をもぎ取ってきたわけですよ! これに燃えずになにに燃えるのかって話ですよ!』


 三人娘の視線が俺に刺さっているのを自覚する。


『急なメンバー入れ替えについては残念ですけど、彼には半年後にまた挑戦してもらいたいと思います! 決勝は今日の午後から。お楽しみに!』


「シショー」


「なんだ?」


「半年後、がんばろ?」


 大股を開いて腕を組んだティアも俺を見上げている。


「ボールサム様をギャフンと言わせてやらないといけませんものね!」


「そうだったな」


 そんな俺たちの様子をササンクアが微笑みながら見ていた。


「今は大会のことを忘れよう。俺たちはこれからダンジョン探索に行くんだからな。そういえばダンジョン探索の経験はあるのか?」


 三人はそろって首を横に振る。

 心なしかササンクアの顔色が悪いようだが、ダンジョン初挑戦ならそれが普通か。


「ダンジョンの探索は基本的に塔での探索と同じものだと思ってくれ。難易度はかなり違うけどな。一応、ダンジョンに入るために必要な道具類は一通り揃えておいた」


 地下一層はそれなりに明るいので照明器具は必ずしも必要ないが、いつなにが起こるかわからないのがダンジョンだ。

 人数分の小型投光器ミニフラッドライトも用意しておいた。


 他に背嚢やロープといった基本的な道具に加え、水や携帯食料も用意してある。

 長期の探索ではないから不要だろうが、これも用心のためだ。


収納空間ストレージは持っているか?」


 空間を個人の収納スペースとして利用できるストレージはあると探索が非常に楽になる。


「私は鏡会から支給されたものがあります」


「わたくしたちは持っていませんわ」


「そうか。ダンジョン探索で見つかることもあるから、その時は二人に優先して渡すとしよう。今回は普通の背嚢を使ってくれ。必要なものはその中に入れておいたからな」


「これをわたくしたちのために?」


「3年前まではこれで飯を食っていたんだ。慣れたものさ」


「わざわざ私たちの分まで用意していただき、ありがとうございます」


「お礼は無事に戻って来てから改めてしてくれ。では行くか」


 先頭に立ってダンジョンへ降りていく。

 三人は及び腰で俺に続いた。

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