第5話 英雄、思わず着替えを見てしまう

「わたくしもやってみたいですわ! ローゼルもそうよね?」


 アームドコートを解除した双子はその場で衣服を脱ぎ始める。


「ちょ、ちょっとお二人ともなにをしているんですか!?」


「見ての通りですわよ。服を脱いで裸にならないとジニア様のように全身にノービススーツを纏えないのでしょう?」


「そ、そうですけど……あの、ジニアさん! 申し訳ないですけど後ろを向いていてはいただけませんかっ」


 ササンクアの言葉遣いは丁寧だったが有無を言わせぬ迫力があった。


「悪い。いきなり二人が脱ぎだすとは思わなかった。俺は後ろを向いているし、それでも不安なら衝立がそこにあるから使ってくれ」


 小さく両手を挙げて無抵抗を主張しつつ後ろを向く。

 そもそも14歳の小娘の裸を見たところでなあ。


 ティアのしっかり張った下半身はなかなかのものだったし、ローゼルの胸は成人女性の平均を大きく上回ってはいたのだが。


 背後からは「失敗しましたわ」だの「お尻が出てますよ」だの「おっぱい、キツイ」だの、たいそう姦しい。


「あの、できました」


「ご覧になってくださいませ!」


 その声に振り返る。


 三人は全身に乳白色のノービススーツを纏っていた。

 ササンクアは恥ずかしいのかうつむき加減でしかも耳まで赤くしている。


「その状態を維持するの辛くないか?」


「魔力を消費しているのがわかるぐらいには厳しいですね」


「分厚すぎるんだよ。もっと薄くしないと常時着用できないぞ」


「薄くというのはどの程度が目安なんですの?」


「地肌がうっすら透けるぐらいかな。その程度なら魔力の消費も抑えられるし、効果も期待できる。ちょっと後ろを向いてもらえるか」


 三人はその場でクルリと回る。


「うん。首から下をちゃんと覆ってるな。どうだ、体の具合は」


「不思議な感じがしますね。なんとなく体が軽い気もします」


「ティア。その場で軽くジャンプしてみろ。軽くだぞ」


「わかりましたわ」


 わずかに膝を曲げてティアがジャンプする。


「ひゃ!?」


 飛び上がったティアの頭は天井に届きそうだった。


「び、びっくりしましたわ。わたくし、あんなところまで本当にジャンプしたんですの?」


「それがノービススーツの肉体強化さ。なかなかいいだろう?」


「とっても気に入りましたわ! ですがさすがにこの状態を維持するのは厳しいですわね」


「だから薄目に纏う必要があるんだ。こればっかりは練習あるのみだな。それは宿題にしておこう。その上に服を着たら話の続きをしようか」


 女の子の着替えをじっと見る訳にはいかないので、もう一度後ろを向いておいた。




「さて。今後についてだが」


「その前にチーム名を決めた方がよろしいのではなくて?」


「そうですね。前のチーム名をそのまま使う気にもなれませんし」


 〈高貴なる純血者ノーブルブラッド〉だったか。

 また随分と御大層な名前を付けたものだ。

 命名者はあの優男なのだろうが。


「そうだな。なにか希望はあるか」


「キャプテンはジニア様なのですから、お好きな名前をつけてくださいませ」


「私もそれがいいと思います」


 そう言われてもネーミングセンスがあるわけではないからなあ。


「みんな――」


 恐らく俺が初めてまともに聞くローゼルの声だった。


「塔に、行きたい。塔には、星があるって、本に、あった」


「たしかにその記述はありますわね。『塔の中には上り下りする星があった』と」


 俺は塔で星を目にしなかったが、そういう記述が本にあったのは覚えている。


「ローは、塔の星、みたい。みんなは?」


 ローゼルが俺たちを見渡す。


「だから。星を探す。そんなチーム名が、いい」


「素敵だと思いますわ!」


「ええ、たしかに」


「じゃあ〈星を探す者スターシーカー〉でどうだ?」


 三人娘の表情を見れば決まりだった。


「よし。この名前でチームをギルドに登録しよう。早速、明日からダンジョンへ潜ろうと思うがどうだ?」


「それは楽しみですわね!」


「ん。いい」


「……わかりました」






 部屋を出て受付へ向かう。


「新規にチームを登録したいんだが」


「わかりました。キャプテンとメンバー、それからチーム名をお願いします」


 登録を済ませるとチーム用の妖精の瞳フェアリーアイを借りられるようになる。

 自動的に探索の様子を録画し、その映像を配信することができるアーティファクトだ。


「ジニアさんたちの活躍、期待してますからね」


「俺を含めて完全無欠の駆け出しチームさ」


「そんなこと言って。素人だったニモフィラさんをあっという間に4級に育て上げたのはジニアさんじゃないですか。今度はあの三人ですね」


 バチュリィが笑っていた。

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