第25話 英雄、ディープアリゲーターを語る

「ところで目的地の方向にあるこの部分はなにかしら?」


「ここ?」


 ローゼルが指で画面をスクロールさせている。


「森だな。そこを抜けていくんだが、この森には凶暴な魔物がいるから注意が必要だ。大回りをすれば回避できるが、そうするとかなり時間がかかってしまう。だから今回は森を抜けていこうと思う」


「ジニア様がおっしゃっているのはディープアリゲーターのことかしら? でもあれは川や沼地などに生息しているはずですけれど」


「その通りだ。ティアは本当によく調べてきたようだな。この森は湿地帯になっているから水生生物も生息しているんだ。むしろディープアリゲーターの主な出現ポイントだと思ってもいい。巣になっているような場所は極力避けていくが、不意に遭遇する可能性は高いから注意が必要だ」


 比較的通りやすく安全な道をルートに設定して、これも共有させる。


「フォーサイティアさん。そのディープアリゲーターというのはどのような魔物なんですか?」


「ササンクア様はトカゲをご存じかしら?」


「ええ。これぐらいの生き物ですよね」


 ササンクアは両手の人差し指で大きさを示している。


「それの50倍ぐらいの大きさを想像していただければいいと思いますわ」


「……え?」


 冗談だと思ったのか、ササンクアが俺を見る。


「事実だ」


「……トカゲですよね?」


「いや。アリゲーターだ。まあ、見た目は似ていると言えなくもないが」


 四本脚で、平ぺったくて、尻尾があるからな。


「それにしては大きさが違い過ぎませんか」


「魔物だからな」


 ディープアリゲーターはこの地下二層でもトップクラスに危険な魔物なのは間違いない。


「そんな大きな魔物に勝てるんですか?」


「主な攻撃方法は噛みつきと尻尾だ。噛みつかれたら腕や足は簡単に持っていかれるが、ササンクアのシールドがあれば牙も通らんよ」


「それなら安心ですわね」


「硬い皮膚をしているが場所を選べばティアとローゼルならダメージを与えるのは可能だ。できる限り腹部を狙え。比較的柔らかい場所だからな」


「うん。わかった」


「気を付けるのは食いつかれて水中に引きずり込まれるのと尻尾ぐらいか。後ろから近づく時は特に気をつけろよ。尻尾の攻撃を貰うと流石に痛いからな。それさえ気を付けていれば問題はないはずだ」


 未知の存在は恐ろしいものだ。

 だが知ってしまえばなんてことはない。


 見た目、動き、生態。生息地はどこでどういう環境なのか。

 戦いにおける攻撃パターンは?

 弱点はなにか?


 たとえ強敵と言われる魔物でも、対応方法を知っていればなんとでもなる。


 未知と既知。


 駆け出しとベテランの違いはここにある。


 この差を埋めるのになにもないところから始めていては大変だが、先達がいれば比較的容易にクリアしていける。


「俺を頼ってくれ。そのために俺はここにいるんだ」


 立ち上がった俺を三人が見上げる。


「さあ、行こう。今日中にグレーパックを10個集めるぞ」

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