第24話 英雄、ブレスレットを使いこなす

「ここが地下二層なのですね……信じられませんけど」


「あつい」


「とてもダンジョンの中とは思えませんわ。本当に外みたいな場所なのですわね」


 日差しというか光を手で遮りながら三人は上を見上げている。


「耳をすませてみろ」


 俺に言われるまま三人は目をつむって音に集中をする。


「なにか聞こえてきますね」


「ざざーん、ざざーん」


「この音はなんですの?」


「波の音だよ。海っぽい場所もこのエリアにはあるからな」


 このチームでダンジョンに潜るのは二回目だが、思っていた以上にスムースに進むことができた。


 二回目のアタックで地下二層に到達できるなんて中級から上級のメンバーで構成したチームぐらいしかやれないだろう。

 それだけ彼女たちに実力があるということだ。


「ここまでは拍子抜けするぐらい順調だったな」


「シショーが、いたから」


「私たちが見落とした罠や魔物の気配をジニアさんが逐次指摘してくれたおかげですよ」


 罠の発見にしろ魔物の気配にしろ、一朝一夕でどうなるものではない。

 あとは経験を積むだけだ。


「悔しいのですわ。休みの間におじい様の本を読み込んで知識を蓄えてきたつもりでしたのに、ほとんど役に立ちませんでしたもの」


 とはいえ戦闘は俺が手を出すまでもなくこなしているのだから、三人とも下級レベルはとっくに超えている。

 すぐにでもランクアップしていくだろう。


「ここからは録画に切り替えるぞ」


 フェアリーアイに生配信を停止させる。


「私たちの生配信、見てくれる人がいるといいですね」


「きっと大勢いらっしゃいますわ。だって英雄ジニア様の生配信なのですもの!」


「ローは、ごはんが、好き。今日のも、おいしかった」


 一層から二層に降りる階段のところで今回は食事を済ませた。


 反省を生かし、食事シーンではなるべくササンクアが画面に映らないように立ち位置や構図を工夫してみた。

 あれを見てヒサープも安心してくれるといいのだが。


「ローゼルもブレスレットを起動してくれるか。地図の共有をしよう」


「うん」


 俺のブレスレットには地下四層までの地図が保存されている。

 そのうち地下二層の地図をローゼルのブレスレットと共有した。


「ここが今俺たちがいる場所だ」


 明滅している光点を指差す。

 ティアはローゼルの、ササンクアは俺のブレスレットに表示される地図を見ている。


「二つ光っていますね」


「俺とローゼルだな。同じチームであればこうして位置情報を共有できるんだ」


「おじい様の本にありましたわ。『ブレスレットで仲間と位置の共有ができたことに何度助けられたか覚えていない』と。たしかにこれは便利ですわね」


「だからなるべく早くササンクアとティアのブレスレットも入手しないとな」


 指で画面をピンチして広域を表示する。


「俺が前にグレーパックを見つけたことがあるのはこの場所だ」


 目的の場所に印をつけて共有させる。


「これは建物でしょうか?」


「ああ。遺跡と言われているが本当のところは俺にもわからん」


「いくつかの場所を探し回るかもしれないとのことでしたけど、この遺跡を探索するということですか?」


「そうだ。一箇所で大量に見つかることはまずない。内部の地図もあるからこっちも共有しておこう」


 拡大していくと自動的に遺跡内部の地図に切り替わる。


「まあ、これは便利ですわね。早くわたくしもブレスレットが欲しいですわ」


「つぎは、クアの。ティアは、ストレージ、もらったし」


「そうですわね。わたくしはササンクア様の次で結構ですわ」


 探索で得られたアーティファクトの分配で拗れてチームが解散するなんて笑えない話がある中で、このチームは上手くやっていける気がする。


「過去に俺が見かけたのはこことここ。それからここだな」


 グレーパックを発見した場所に印を入れていく。


「比較的まとまっている場所はこのぐらいだ。ここを順番に回って回収していく」


 広いダンジョンを隅から隅まで走り回っていたら体がいくつあっても足りない。

 ドロップするポイントを効率よく回るのが一番だ。


「こちらにある広い場所はなんですか?」


「そこが海だ」


 ぱあっとティアの顔が輝く。


「わたくし、一度でいいから海を見てみたいですわ!」


「ローも、みたい。シショー、いこ?」


「悪いが今回は諦めてくれ。依頼をこなさないといけないからな。地下二層までならいつだって来られるから海は必ず見られるさ」


「その時が楽しみですね」

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