第76話 英雄、依頼を検討する
「おかえりなさい、ジニアさん。ご無事でなによりでした」
「ありがとう」
事前にギルドへ提出しておいた計画書にチェックを入れて貰ったところで探索は終了となる。
これまでに比べて手間は確実に増えたが、探索者の安全を考えれば必要な措置と言えるだろう。
「目的のアーティファクトは見つかりましたか?」
「ローゼルにはもうしばらく背嚢を背負ってもらうことになりそうだ」
「あら。残念でしたね。でもストレージは比較的見つかりやすいアーティファクトですし、すぐに手に入りますよ」
「そう願いたいね」
ギルドの壁に設置されたボードにはゴールデンロッドの配信が流れている。
どうやら地下三層の生配信について取り上げているようだ。
「ところで、次の予定は決まってるんですか?」
「いいや。ダンジョンに潜るのは三人の探索訓練も兼ねているから依頼を受けながらでもいいんだが……なにかあるのか?」
パチェリィの顔を見れば俺たちのチーム向けの案件があるのだと予想がつく。
「でしたら一つ、ジニアさんたちにもお願いをしたいんですけど」
資料を受け取り、ざっと目を通す。
「……未踏破エリアの調査か」
「はい。ギルドとしてはダンジョンの様子が変わっていることに懸念を持っていまして、もしかしたら未踏破エリアにその原因があるのではないかという意見もあるんです」
「その意見もわからんでもないが、どうだろうなあ」
ダンジョンへ潜っている者の感覚として、それは「ない」と思う。
たしかに地下一層にはまだ誰も足を踏み入れていないエリアがあるのは事実だ。
しかしそれらの場所になにか重要なものが眠っていて、その影響でダンジョン内が変化しているとは思えない。
理由は未踏破エリアの場所だ。
いくつか残っているが、それらの多くは中心から外れた場所にある。
そんな所に重要ななにかがあるとは思えなかった。
「これは俺たちだけに依頼しようとしているわけではないんだろ」
過去にギルドの依頼を受けて未踏破エリアの探索についてのノウハウを生配信したことがある。
それで一時期は未踏破エリアをなくそうといくつかのチームが活動してくれて、そこそこ成果が出ていたはずだ。
「はい。地下一層の魔物の脅威度も変化しているので、新人さんたちが無理をして先を急がないように探索に力を入れてくれないかなーという目論見もありますから」
「そんなぶっちゃけ話を俺にしてもいいのか」
「大丈夫ですよ。ジニアさんがそれを吹聴することはありませんから」
「それはまた随分と信頼が厚いな。まあ、探索の基礎を学ぶ機会としては申し分ない。みんなに聞いてみてるから、返事はそれからにさせてほしい」
「わかりました。よろしくお願いしますね」
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