第75話 英雄、他国人と会う
海辺から森エリアに入る。
大きな音がしたのはこの先だ。
「状況報告を。俺は体力、魔力、装備。すべて問題なしだ」
「わたくしもですわ」
「ローも。大丈夫」
「私も問題ありません。シールドは必要でしょうか?」
「まだ必要ない。どうしても戦わなければならないとなったときに頼む。では行くぞ」
その時、再び大きな音がした。
「ジニア様! あれを!」
宙を巨大なディープアリゲーターが舞っていた。
とはいえ、飛行能力を得たわけではない。
恐らくは何者かによって吹き飛ばされたのだ。
「あのサイズのディープアリゲーターを吹き飛ばすなんて、とんでもないパワーだな」
パワー自慢の
しかし2級のタンジーでもあそこまで高く飛ばすのは難しいように思うのだが。
三度、大きな音と共にディープアリゲーターが空を飛ぶ。
どこかのチームが戦っているのは間違いない。
苦戦をしているのなら手を貸すところだが、この分なら必要ないだろう。
バキバキと木をへし折りながらディープアリゲーターが落下する。
「あんな大きなの、とばして、すごい」
「〈
「マグノリアたちはギルドの依頼を受けて地下四層に行ってるはずだ」
その帰り道にここへ寄った可能性もあるが、わざわざディープアリゲーターを吹っ飛ばすために寄り道をする必要はないと思う。
「どんなチームが戦っているのか気になりますね」
四度目はなかった。
どうやら片付いたようだ。
「せっかくここまで来たんだ。挨拶だけでもしておくか」
あれだけ派手な戦闘があった後だから近くに魔物はいないと思うが、しっかり警戒をしながら進んでいく。
この森は汽水域にあり、森の中心部に向かうのなら船がなければ難しい。
だが周辺部ならば土もあるのである程度のところまでは歩いて近づくことができた。
「この辺りでは見ない格好をしているな」
頭に布を被っているのは日よけのためだろうか。
丈の長いチュニックのような上着の三人はみな鍛え上げられた肉体をしている。
恐らくは高位のアームドワーカーだろう。
三人から少し離れたところに立つもう一人はひと際カラフルな服を着ている。
しかし派手な印象はない。黒い髪や褐色の肌と相まって不思議としっくり見えた。
きりっとした太い眉と大きな目が印象的な女性だ。
軽く手を挙げて敵意のないことをアピールしながら近づいていく。
「私たちになにか用かな」
声をかけてきたのは女性だった。
「かなり大きな音がしたから何事かと思って様子を見に来たんだ。ディープアリゲーターを吹き飛ばすなんてすごいな」
「あれはディープアリゲーターというのか」
彼女が見ている方向は3匹目のディープアリゲーターが飛んでいった方向だ。
まさか彼女があれをやったか。
ということはヘビィアームドなのだろう。
「俺はジニア・アマクサ。〈
「ほう。貴殿があのジニア殿か。初めてお目にかかる。私は〈
個人名もチーム名も初めて聞く。
あれだけの戦闘能力があるチームならば耳に入いらないはずはないのだが。
「ディーウというのは聖古宮王国の王族がお忍びの時に使う名ですわ」
「よく知っているな。まさかこの国でそのことを知る者に会うとは思わなかった。ジニア殿はよい従者をお持ちのようだ」
「訂正させてくれ。ティアは俺の従者じゃない。大切な仲間だ」
「そうか。それは失礼をした。謝罪をしよう」
右手を胸にあてたシクモアが頭を下げる。
「私はこの国に来たばかりでな。こちらの風習に疎いのだ。それから私が王族と知られるとなにかと面倒が多い。できればそのことは他言無用に願いたい」
「承知した」
聖古宮王国は北にある海と砂漠を超えた先にある巨大な国だ。
ここ聖塔王国が塔を中心に栄える国であれば、聖古宮王国は広大な迷宮のそばに広がる王国だと言われている。
「ということはダンジョンは初めてなのか?」
「そうだ。だが心配は必要ない。私は
聖塔王国の塔やダンジョンのように、聖古宮王国では迷宮からさまざまなアーティファクトが得られると聞く。
「迷宮にも魔物が出たが、ここの魔物はいささか手ごたえに欠けるな。というわけで私はもう少し潜ることにする」
「地下三層はこれまでと様相が変わるから注意してくれ。防御力の高いゴーレムが多いし、最近はかなり巨大なストーンゴーレムが確認された。それからゴーレムは倒し過ぎると仲間を呼ぶ性質があるから倒すかどうかはよく考えた方がいい」
初めてダンジョンに入ってここまでたいした疲労もしてないし、余計なおせっかいだとは思うが、探索者の仁義として最低限の情報だけは伝えておく。
「そうか。どうやら強敵と戦えそうだな。情報感謝する。ではな、ジニア殿。また会おう」
三人を引き連れてシクモアは次の階層へ向かっていった。
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