第48話 英雄、押し切られる

「実はパチェリィからチームの拠点を確保したらどうかと言われているんだ。配信で知って俺たちの情報を得たがっている連中も多いそうでな。なにかあってからでは遅いからまとまって生活できる場所を用意できればと思っているんだが……」


「つまり皆さんと共同生活をするということかしら?」


「そうだな」


「それはよいお考えですわね。とても楽しそうですわ! わたくしは賛成です。ローゼルはいかが?」


「うん。ローも、いいよ」


「あ、そうですわ。わたくしたちに仕えてくれているメイドたちを連れて行ってもよいかしら」


「そりゃ構わんが、そうなるとそれなりに大きな物件が必要になるな。ササンクアはどうだ。ティアやローゼルと一緒に暮らすのは反対か?」


「いいえ。皆さんと一緒ならきっと賑やかで楽しい毎日になりそうです」


 そうか。みんな賛成か。

 それなら本格的に物件を探さないといかんな。

 メイドも一緒に生活できるぐらい大きくて、適度に鏡会に近い場所となるとなかなか条件は厳しそうだが。

 ギルドならあちこちと付き合いがあるし、オウリアンダに相談してみるか。


 クイクイと袖が引かれる。


「なんだ?」


「シショーの、ごはん。まいにち、たべられる?」


 まさかそれが目当てで共同生活に賛成した、なんてことはないよな?


「そうだな。俺は近くに暮らすようにするから食事ぐらいは――」


「どうして? なんで、シショーは、いっしょじゃ、ないの?」


 グイグイ引っ張るのやめて。袖が伸びちゃうから。


「俺みたいのが女の子三人と一緒に暮らせるわけがないだろう。なんのために拠点を確保しようとしているのかわかっているのか」


「ジニア様こそおわかりになっていないのではありませんの? わたくしたちはチームなのですよ。キャプテンであるジニア様が一緒にいない方が問題ではありませんの」


 あー、いや。そういう問題じゃないと思うんだが。

 不審な輩から三人を守るために拠点を確保しようって話だったはずだよな?

 そんな場所に俺がいたら……うーん、俺がいれば近寄ってくる奴はいなくなる……のか?


「私もジニアさんが近くにいてくれると心強いです」


「ローは、シショーと、いっしょがいい」


 ううーん。

 親子ほど年齢が離れているから俺としては清い心で接することができるだろうし問題はないのだが、世間の目というものがなあ。


「なにを悩むことがあるんですの? キャプテンとしてわたくしたちをしっかり守っていただかなければ困りますのよ」


「わかった。わかったよ。じゃあ、俺も一緒に暮らすってことで。そうなると家族で暮らせるぐらいの建物が理想だな」


 リビングなどの共同スペースはなるべく広めで、かつ個室は多い方がいいな。

 三人とも年ごろなのだからプライバシーはしっかり確保してあげたい。


「そういえばジニアさんにはパートナーや家族がいらっしゃらないんですか」


「俺か。俺は国から家を貰ったからそこで一人で暮らしているぞ」


 塔へ登った俺は国から恩給をもらっている。

 生活の拠点となる住居もその一つだ。


「その家はどのあたりにありますの?」


「北地区だよ。第三ブロックにある」


「静かでよい場所ですね。鏡会にも近いですし」


「おうちは? おっきい?」


「そうだな。俺一人では持て余すぐらいは広いぞ。もともと家族が暮らせるような家だからな」


 塔に登る聖塔探索士が家族を残していくことに不安を覚えないようにするために国は様々な便宜を図っている。家族が暮らせる家を用意するのはその一環だ。


 二階建てでキッチンやリビングは広め。二階には個室に使える部屋が複数あり、地下室だって完備されている。


「では、そちらにお邪魔させていただきますわね。引っ越しはいつがよろしいでしょうか」


「……え?」


「なるべく早い方がいいんじゃないでしょうか。私は荷物一つですからすぐにでも移ることができますよ」


「……は?」


「わーい。シショーのおうちー」


「…………なんでそうなる」


「建物のある場所は治安が良く、また鏡会に近いこと。わたくしたちが一緒に暮らしても問題ないぐらい広い建物であること。なにか問題がありまして?」


「……いいえ」


 確かに条件としてはぴったりだ。

 しかし男が一人暮らしをしている家に女の子を招き入れるのはどうなんだろうなあ。

 その、倫理的にとか、世間体とか……。


「メイドも、いるよ?」


「ああ、そうでしたわね。お屋敷の管理をしてもらう必要がありますから半分だけ連れていくとしましょうか」


「ちなみに何人ぐらいだ?」


 数人増えるぐらいならなんとかなるとは思うが。


「10人といったところでしょうか」


 は? そんな人数が暮らせるほど広くはないぞ。


「ローゼルのお付きも含めると25人ほどですわね」


「増えてる! しかも数はローゼルのメイドのが多くないか!?」


「えへへ。ローのメイド、おおいの」


 そこ、笑っていいことじゃないからな?


「大家族が何世帯も一緒に暮らす家じゃないからそんなには無理だ。新しい物件を探す必要があるな」


 よし。これで俺の家の平和は守られた。


「それなら連れていくメイドを減らしますわ。ローゼルもそれでいいわね?」


「うん。シショーと、いっしょなら、いい」


 ……やっぱり守られなかった。

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