第60話 英雄、癒やしの力を体感する
「ぐえっ」
ローゼルの締め付けがますますきつくなる。
なんだ、どうした。
ちゃんと謝ったじゃないか。
「それはつまり死ぬおつもりだったということなのですね? わたくしたちを置いて。塔へ行くことを諦めてっ」
「違うぞ。説明をしなくて悪かったと思ったから謝ったんだ。ちゃんと俺が生き残る方法を考えた上での選択と行動だったんだからな」
「そうなの?」
目元をはらしたローゼルが俺を見上げる。
「そうだ。あのまま通路まで二人で行くのは無理だと思ったから、あえて俺はルートを変えたんだ。そうすることでゴーレムがどちらを追うべきか悩んで止まってくれたら最善。まだどちらかを追いかけるようなら俺へ引き付ける」
「あの時、ジニア様は声を出してゴーレムを誘導しようとしていましたわね」
「あとは俺が逃げ切ればいいだけだ。俺はササンクアにシールドをかけてもらったからな。それを利用したんだよ」
「どういうことです? あれは偶然弾かれたのではなかったんですの?」
「違うちがう。狙ってやったんだよ」
二人は俺がなにを意図していたのかわからなかったようで、そろって?マークを浮かべている。
「だから当たる瞬間に位置を変えて、シールドに攻撃が掠るようにしたんだ。当てる角度さえ間違えなければ通路までいけると計算してな」
ササンクアのシールドならゴーレムの攻撃でも一撃は耐えられるだろうと信頼していたからできたことだ。
計算違いだったのは弾かれた時のあの速度だけか。
まさか壁にめり込む勢いで叩きつけられるとは思っていなかった。
恐らく、あそこまではシールドが持ってくれたんだろう。
そうでなければ内臓破裂でも起こしていたはずだ。
唯一、計算違いだったのはおまけの岩だな。
ゴーレムが蹴とばした岩がたまたま頭に命中するところまで計算に入れてなかった。
「そうだったんですのね。でも、あのような無茶はもうしないでくださいませ。ジニア様がいなくなってしまったら、わたくしは……わたくしは……」
もうこらえ切れないとばかりにティアの両目から涙があふれ出した。
俯くとポタポタと落ちる涙が床を濡らしていく。
「ちゃんと説明をしなくて悪かった」
「シショーが、ぶじだったから、いい」
ローゼルのくぐもった声も泣いているようだった。
「二人とも、心配をかけてすまなかった」
俯く二人の頭を撫でてやる。
しばらくは二人のすすり泣く声が部屋に響いていた。
触れられている場所がほのかの温かい。
これが癒やしの力なのかと感心をする。
「はい。これでももう大丈夫だと思います」
「ありがとう」
目が覚めたササンクアが、念のためにと回復魔法をかけてくれた。
「いいえ。私のせいでジニアさんを危険な目にあわせてしまって……申し訳ありませんでした」
「地下三層は体の動きが鈍くなるからな。それにこれだけ長い間ダンジョンに入っているのはみんなも初めての経験だ。だから仕方ないさ。むしろそこを計算に入れてチームを行動させられなかった俺の責任だ」
スクリーンの回収が順調に行き過ぎて油断していたところがあったのだろう。
改めて気を引き締めなければ。
「これからどうしますか?」
「そうだな」
地図ではこの通路の先にスクリーンのポイントがある。
だが通路自体は行き止まりなので戻るには大広間に出るほかない。
「まずはこの先のポイントをチェックしよう」
「スクリーンが見つかれば依頼達成ですわね」
「やっと10個。ながかった」
「まだ見つかってないぞ。それに見つかったとしても依頼はまだ終わってない。俺たちが無事にダンジョンから出るまではな」
三人の表情が引き締まった。
俺がなにも言わなくても三人は自然に隊列を組み、周囲を警戒しながら通路を進んでいく。
「この先に部屋がある」
罠がないかチェックして、安全を確保してから突入した。
「魔物の気配はありませんわね」
互いに背中を預け、自分が担当する方向をしっかりとチェックする。
「シショー、これ」
ローゼルが部屋の隅に落ちていたスクリーンを抱えていた。
「やりましたわ!」
「この通路に入って、結果的には正解でしたね」
「ああ。これで依頼の品は全部そろったな」
あとはここから帰るだけだ。
問題はあの大広間をどうやって抜けるかだった。
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