第3話 英雄、新チームのキャプテンとなる

「本当に戦闘では役に立たないぞ。実際に戦ったからわかっているとは思うが」


「準々決勝の戦いで貴方はギリギリまで生き残ったではありませんか」


「チームで俺だけ撃破判定貰ってるけどな」


「勝敗を優先した結果だと思っています。ボールサムさんを貴方が引き付けることで私たちを各個撃破させる。そういう作戦だったのではありませんか?」


 驚いた。その通りだ。


「おじい様は本にこう書いていましたわ。『塔で本当に必要なのは生き延びるための知識と技術だ』と。その意味でジニア様ほど優れた方はいらっしゃらないと思います。ねえ、ローゼル。あなたもそう思うでしょ?」


 ローゼルが上目遣いで俺を見つめる。

 なんだかいけない気持ちが湧き上がってきそうだ。


 しばらくしてから、ローゼルがこくりと頷いた。


「ほら、ローゼルも同意してくれましたわ。ジニア様こそわたくしたちのキャプテンに相応しいのです」


 正直なところ探索に関しては塔での経験もあるので、かなりやれると思っている。

 だが探索中に魔物に襲われることはしばしばあるから戦闘能力も大切なのだ。

 だからアームドコートが召喚できる状態に回復するまではソロで経験値稼ぎでも考えていたのだが。


 彼女たちがこう言ってくれるのなら、俺が断る理由はなかった。


「わかった。俺をチームに入れてほしい」


 言いながら頭を下げる。


「頭をあげてください。ジニアさんにはキャプテンになっていただくのですから、この場合は私たちが頭を下げる側だと思います」


「よろしくお願いしますわね、ジニア様。ほら、ローゼルも」


 姉に促されてペコリとローゼルも頭を下げる。


「よろしく頼むよ。じゃあ、今後のことを話しておこうか」


「半年後の大会に向けて準備をしていくのでしょうか」


「準決勝まで戦った経験で言えば、正直、あの大会で勝つことは塔での探索にはあまり役立たないと思う」


「おじい様の本の通りですわね」


 あの本には本当に多くの示唆がある。

 今でも時間があれば読み直すぐらいだ。


「大会で優勝する以外にも貴族から推薦を受ける方法がある。3年前に俺が塔に挑んだ時はそっちだったんだが」


「たしかダンジョンの地下五層を確認したことが評価されたんですよね」


「ああ」


 塔の真下には広大なダンジョンが広がっている。

 今のところ確認されているのは地下五層まで。

 3年前に俺たちが発見した。


「大会で重要視される戦闘よりも、ダンジョンでの探索経験の方が重要だと俺は思う」


「おじい様の本に『探索はすべてに通ずる。ダンジョンも塔もしかり』と書かれていますわ」


 もしかしてティアは本の記述を全部記憶してるのか?


「というわけで、しばらくはダンジョンの探索を中心にやっていこうと思う。同時に各人のレベルアップとチームとしての連携も磨いていければ思うんだが、どうだ?」


「……わかりました」


「わたくしたちもそれがいいと思いますわ。それから、これはわたくしの個人的な要望なのですけれど」


 ティアは椅子から降りて右手をあげる。


「半年後に、あの高慢ちきなボールサム様をギャフンと言わせてやりたいですわ!」


「そいつはいい。必ず見返してやろう」

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