第10話 英雄、ブレスレットを見せる
食事を終えて少し余裕が出てきたのだろう。
三人の顔色もよくなっていた。
左手首に巻いたブレスレットを確認する。
ダンジョンに入っておよそ2時間が経過していた。
「それはもしや
「ああ。そういえば例の本にも書いてあったな」
ダフォダルはかなり上等なマルチブレスレットを装備していたという記述があったはずだ。
「ジニア様のブレスレットはどのような機能があるんですの?」
「よくあるタイプだぞ。時計と地図とアンカーあたりだな」
地下一層の地図を空間に投影して現在位置を表示する。
「ここから入ってきて、このルートを通って、今いる場所がここだ」
「初めて見ましたけど便利なものなんですね」
「ストレージ以外に鏡会から支給されたものはないのか?」
「はい。ダンジョンに入ることは想定されていなかったと思いますので」
「そうか。ブレスレットはチーム内で位置情報なんかを共有できるから、なるべく早く全員分を揃えたいな」
「ジニア様はダンジョンのことをなんでもご存じなのですわね」
「なんでもは言い過ぎだな。10年以上やってれば誰でもできる程度のことさ。経験の賜物ってやつだ。学べるところはどんどん学んでいってくれ」
「シショー」
クイとローゼルが俺の袖を引く。
「いなくなっちゃ、やだ。ずっと、いっしょが、いい」
「俺はいなくならないぞ」
「ローゼルの気持ちもわかりますわ。今の言い方ですと、そのうちジニア様がいなくなってしまうような感じがしましたもの」
言い方が悪かったようだ。
安心できるように頭を撫でてやった。
「ローゼルだけズルいですわ。わたくしにもしてくださいませ」
「ああ、いいぞ」
自己申告してきたティアの頭も撫でる。
「私は大丈夫ですから。はい」
「クアも、いっしょ。ね?」
ローゼルに懇願され、ササンクアは困ったような顔をする。
「それでは……私もお願いしていいですか」
「ははは。なんだかみんな子供みたいだな」
双子は14歳だから仕方ないとしても19歳のササンクアの頭を撫でるのはどうなのだろうと思いつつ同じようにしてやった。
「ところで先ほどの食事なんて配信したら喜ぶ方が多いのではないかしら。本来は実際に味わっていただくのが一番なのですけれど」
「他人の食事の様子なんか見て嬉しいか?」
「幸せそうに食事しているところを共有するのは素晴らしい行為だと思いますよ」
なるほど。実に鏡会関係者らしいコメントだ。
「とはいえあの食事は複製器がないとできないからな。まあ、複製器は地下三層から入手できるものなんだが」
「そういう情報も込みで配信されるのはいかがでしょうか。きっと望まれる方はいると思います」
「ふむ。そうだな」
貴族の目に留まらないと推薦も受けられないから、やって損はないかもしれない。
「シショー、ここ、なに? 広いとこ、ある」
表示されたままになっていた地図をローゼルが指差している。
「ああ。そこに南エリアのボスがいるんだよ。たしか南のボスはブレスレットをドロップすることがあるんだが」
「ほしー! ローも、ブレスレット、ほしー!」
「でも今のわたくしたちの実力でフロアボスに勝てるとは思えませんわ」
ゴブリンを瞬殺した二人の攻撃力は7級や8級レベルをはるかに超えている。
せっかくここまで来たのだからボスを倒してドロップを狙うというのも悪くはない。
「ササンクアのシールドがあれば大丈夫だと思う。さっきもローゼルへの攻撃をしっかりそらしていたしな。とても8級レベルの技じゃなかった」
「ありがとうございます。もしもケガをしてもご安心ください。私には癒やしの力がありますので」
「わたくし、聖女の癒やしを受けたことがございませんの。一度、受けてみたいですわ」
いや、ケガをしないに越したことはないからな?
「よし。じゃあ、帰る前にちょっとボスにご挨拶していくか」
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