第9話 英雄、ダンジョン飯を用意する
先に部屋に入って異常がないか確認をする。
「入ってきても大丈夫だぞ」
部屋に入った三人は緊張が解けたのか、その場に座り込んでしまう。
「休憩時はまず自分の状況を報告するんだ。異常はないか?」
「つ、疲れましたわ……」
「もう、歩けない、かも」
「なんだか体が重いような気がします」
報告と言っていいかは微妙なところだが、今回はよしとしておこう。
「俺は道具の消耗なし。体力も問題なし」
俺の報告を聞いたティアがやおら立ち上がる。
「はあはあ。わ、わたくしも道具の消耗はございません。体力については……しばしの休息が必要ですわ」
「わかった」
「おじい様の本に書いてありましたわ。『チームは運命共同体。常に互いの状況を知らせ合うことが大切だ』と」
それを聞いたローゼルとササンクアも自身の状況を知らせる。
「わかった。今は体力を回復させる必要があるようだな」
「ということは食事でしょうか。そういえばジニアさんが用意してくださった背嚢に食料が入っていましたね」
「3日分の携帯食料を入れておいたが、せっかくだから面白いものを見せてやろう。温かい食べ物の方が疲労も回復しやすいしな」
ストレージから大きさの異なる円錐を二つ合わせた形の道具を取り出す。
「それはなんですの?」
「
塔で拾った10センチほどの大きさのスクラップバーを数本ストレージから出す。
そのままレプリケーターの小さな円錐側に突っ込む。
かすかな音を立てながら反対側に温かなシチューの入った器が現れた。
同じことを人数分繰り返す。
「これはいったい……なにが起きたんでしょう」
「ほらシチューだ。体も温まるぞ」
「器もありましてよ?」
「便利だろ」
「便利、とは」
ちなみに大きな円錐側に生成された器を入れると魔核に似たものに作り替えてくれる。
なかなか便利な代物なのだ。
「毒なんて入ってないから心配するな」
とはいえいきなり出されたものを口に入れるのは躊躇われるだろう。
だから率先して飲み干してやった。
「ふう……美味い」
胃の辺りから体が温まっていくのがわかる。
「私たちもいただきましょうか」
「いただきますわ」
「……ずず」
三人は恐るおそるシチューを飲む。
途端、ぱあっと顔が明るくなった。
「おい、しい」
「びっくりするぐらい味が濃いんですね。でもなんと言うか……すごくおいしいです。すみません、適切な言葉が出てきませんでした」
「この味、どこかで口にした覚えが……そうですわ。たしかアンセット様のお屋敷でいただいた食事の味に似ているような……でもまさかそんなはずは」
俺たちが普段口にする食事は基本薄味だ。
せいぜい塩を効かせる程度で味のバリエーションはほとんどない。
だが一部の貴族はダンジョンで見つかる調味料を取り寄せて料理に使っているという。
スプーン一杯分の調味料が同じ量の黄金と交換されるって話だ。
あるいはそのアンセット様のお屋敷にはこれと同じレプリケーターがあるのかもしれない。
三人は無言でシチューを平らげてしまった。
「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」
「あの時の味を再び体験できて幸福でしたわ」
ローゼルはスプーンを咥えながら上目遣いで俺を見る。
「おかわり、ほしい」
「ああ、いいぞ」
棒クズを取り出してレプリケーターに突っ込む。
それを見て、ササンクアとティアが揃って器を差し出した。
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