第8話 英雄、仲間の初戦をフォローする

 既にティアはアームドコートを召喚している。


「ま、魔物ですの?」


「そうだ」


 それを聞いてササンクアとローゼルもアームドコートを召喚した。


 小さな鏡を手にして壁越しに通路を確認する。


「ゴブリンだな。数は3」


 薄暗い場所に暮らす小柄で醜い外見をした生物だ。

 このダンジョンにもかなりの数が生息している。


「ぜ、前衛としてわたくしが戦いますわ」


「ローも、戦う」


 意気軒昂なのは結構なことだ。


「ササンクアのフォローがあって、二人のレベルなら問題ないだろう。シールドを付与してやってくれるか」


「わかりました」


 ガードアームドのササンクアは他者に防御力を高めるシールドを展開することができる。

 自身のアームドコートに加えてこのシールドがあればゴブリン程度の攻撃は通らない。


「俺がフォローする。全力でいけ」


「わかりましたわ!」


「うん!」


 通路から飛び出すと二人がゴブリンへ向けて突っ込んでいく。


「たあああああ!」


 その声を聞いてゴブリンは小さな剣を手に持った。


 足の速いティアが前に出て一匹目に飛び掛かる。


「ふうううっ」


 細く長い手をまるで鞭のようにしならせて殴りつける。


「ギャガ!?」


 側頭部を打ちぬいた一撃でゴブリンの頭半分がなくなっていた。


「やっ」


 足を止めたティアの横をローゼルが駆け抜けて二匹目に迫る。

 振りかぶった拳が空を切った。


「ギギィ!」


 カウンター気味の刃の軌道が不自然にズレる。


「ンギィ!?」


 ローゼルは急制動をかけ、振り返り様に拳をお見舞いする。


 ズガンという鈍い音がすると小さな盾を構えていたゴブリンの上半身は消えてなくなっていた。


 二人とも攻撃力については問題ないようだ。


「も、もう一匹いましたわよね!?」


 辺りを見渡すティアの足元に三匹目のゴブリンの首が転がる。


「ひゃ!?」


 飛び退ったティアの小柄な体を抱き留めた。


「二人ともお疲れさん」


「ジ、ジニア様……いつの間に」


「お二人の後に続いたジニアさんが三匹目を倒してくれたんですよ」


 後方に残っていたササンクアからは俺の動きもよく見えていただろう。


「魔物を倒したら魔核コアの回収をしないとな。まずは俺がやってみせるから見て覚えてくれ」


 胸にナイフを入れて心臓近くにある魔核を回収する。


 魔核はアーティファクトの動力源や、様々な素材にもなる。

 売ればいくばくかの収入にもなるので、ダンジョンへ潜る探索者にとって収入源の一つだ。


「ローゼルが倒したゴブリンの魔核はダメになってるな」


 上半身ごと拳で吹き飛ばしたから仕方ないんだが。


「ごめん、なさい」


「いや、謝ることじゃない。まずは戦いに勝って生きていること。それが最重要だからな」


「おじい様の本にもありましたわ。『生き残ること。これこそが勝利である』と」


 手早く2つの魔核を回収する。


「手際がいいですね」


「探索をしていれば誰だってできようになるさ」


「私たちにも可能でしょうか」


「勿論だ。少しずつできることを増やしていけばいい」


 血で濡れた手もノービススーツで覆ってあれば布で拭うだけで綺麗になってくれる。


「よし。すぐ近くに魔物が寄り付かない部屋があるからそこで休憩しよう」

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