第37話 英雄、検討する
「――以上、今回の配信は終了だ。みんな、命を大事にな」
フェアリーアイに配信を停止させる。
今日の探索もこれで終了だ。
「お疲れ様でしたわ!」
「今回の配信もたくさんの人に見ていただけるといいですね」
「きっと、みてくれる」
俺たちはギルドから初心者向けのノウハウ配信をしてほしいという依頼を正式に受けていた。
それからというもの地下一層を探索する上での注意点を随時配信している。
ダンジョンにおける安全の確保だったり、警戒の仕方であったり、魔物の特性を把握した上での戦い方であったりと内容は様々だ。
幸いなことにどの配信も閲覧者の数は増え続けていた。
無謀なタイムアタックに挑戦するチームも減少傾向にあるようだ。
「じゃあ、ギルドに戻って報告を済ませよう」
今日の配信は未踏エリアにおける行動についてだった。
広大な地下一層にはいくつか未踏エリアが残っている。
そこに足を踏み入れて状況を報告することでギルドから報奨金が出るのだが、そのために注意すべきことなどを配信したのだ。
これはギルドから指定された内容だった。
無理をして地下二層を目指そうとするチームを減らすために、地下一層の未踏エリアを探索させようという腹のようだ。
「お疲れ様でした。今回の生配信もよかったですよ」
カウンターの向こうに立つパチェリィがいつものすまし顔をしながら、ウキウキな声で話しかけてくる。
「なんでそんな嬉しそうなんだ?」
「最近、ジニアさんたちの配信の閲覧数が増えていくのを見ると嬉しくなっちゃって。別に私がなにかをしたわけじゃないんですけど、チーム結成から担当している者としてはなんというかグッとくるものがあるんですよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいよ。ギルドからの報奨金に色がついていたらもっと嬉しいんだがな」
「そこは規定通りです」
あ、そうですか。
「さっきの配信もさっそくゴールデンロッドさんが紹介してくれていますよ」
ギルドの壁に設置されたボードには俺たちがさっき配信したばかりの映像が映し出されている。
『――今回は未踏エリアにおけるノウハウを公開してくれているぞ。相変わらずわかりやすくてためになる配信、どうもありがとー!』
「いやいや、どういたしまして」
俺の呟きにパチェリィが噴き出した。
『しかし流石は塔から帰還した英雄ですね。後進のためにもこうしてノウハウを惜しげもなく公開してくれるなんて。正直、足を向けて眠れない探索者はたくさんいると思うんです。だから住んでる場所教えてください』
「言っちゃダメですからね」
「わかってるよ」
配信している以上、顔が知られるのは仕方がないが、無用なトラブルを避けるためにも住んでいる場所などのプライベートな情報は公にすべきではない。
『それに探索者としては駆け出しの三人の成長を見守れるのがなんかいいんですよね。お兄さんが見守っているぞ、ガンバレ!って思いながら配信見ちゃいますもん。カンパを受け付けてないんですかね? 検討してください。そしたら、ボク、結構出します』
「ふーむ……」
「ダメですからね。絶対にトラブルに巻き込まれますから」
「わかってるよ。ちょっと検討してみただけだ」
「検討もしないでください」
検討するのもダメなのか。
『彼女たちのファンクラブとかないんですかね? なかったらボクが作っちゃいましょうか。あはは。さすがに冗談ですけど。でも毎回、いい配信をありがとうございます! これからも〈
最後にそう締めてゴールデンロッドの配信は終わった。
「まさかこんな風に取り上げられるようになるとは思ってなかったなあ」
「すごい人気なんですよ。ジニアさんたちの配信のお陰でダンジョンに挑戦する前に準備をしっかりするチームが増えてくれました。ギルドマスターもとっても喜んでましたから。あ、そうそう。プライベートな問い合わせについてはしっかりガードしていますからご安心ください」
そういえば初めての配信の後にも俺たちのチームについて問い合わせがあったんだよな。
「これからも頼むよ。面倒事はできる限り避けたいからな」
改めてパチェリィに頼んで、三人が待っている食堂へと向かった。
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