第34話 英雄、相談をする

 ギルドの食堂にチームが集まっていた。

 そろそろ食事時になるので、これから人が増えていくだろう。


「ジニア様から大切なお話があるとのことでしたけれど」


 三人ともどこか緊張しているようだ。


「休息日だったのに呼び出して悪かったな。まずはギルドからの報奨金を分配しようか」


 それぞれの前に小袋を置く。


 もちろん俺の前にも置いた。

 このチームでは報酬を四等分すると決められたからだ。


「俺たちが報告した地下二層の異変が確認された。ギルドから下級の探索者は近寄らないようにという指示が出たそうだ」


「いっぱい。おもい」


「結構、いただけるんですね」


「わたくしたちの活動が少しでもお役に立てたようでよかったですわ」


「こういう報告も貴族の耳に入る。だからこれからもダンジョンに入って気が付いたことがあればどんどん報告をしていくつもりだ」


「素晴らしいことだと思いますわ! 『探索者はライバルであると同時に仲間である』。おじい様の本にも書いてありますものね。なんと言いますか、そういうのは……そう。燃える!というやつですわ!」


 最近、ゴールデンロッドの配信にはまっているらしいティアは彼の口癖を使いたがる傾向にある。


「そういえばこの前の生配信も評判がいいみたいですね。こうして耳目を集めていけばきっと貴族からの推薦を得られるのだと思います」


「いっぱい、みてるひと、いる」


「あー、そのことなんだが……その前に食事を頼んでおこう」


 ローゼルがじーと俺を見ている。


「……レプリケーターは使わないぞ?」


「しょんぼり」


 やっぱりか。

 この前食べたグレーパックもお気に入りになってたしなあ。


「ローゼルの気持ちもわかりますわ。だってあれ、とても美味しかったのですもの」


 ティアが頬に手を当てているのは落ちそうになるのを支えているからだろうか。

 いつかレプリケーターが手に入ったら優先して双子に渡してやるとしよう。


 手を上げて給仕を呼び止め、適当に注文をしてから話を再開する。


「実はギルドから依頼というか、相談を受けている」


 そう切り出すと、あからさまにササンクアがホッとしたような顔をしていた。


「どうした」


「え、あ、いえ。もしかして私のことでなにかあったのかもしれないと思っていたものですから」


「クアが、どうして?」


「私のような立場の者がダンジョンに入ることを喜ばない方もいらっしゃいまして。そのことでご迷惑をおかけしているのではないかと思っていたんです」


「禁足派ってやつのことか。ヒサープから話は聞いているが、幸いそっち方面の話じゃないから安心してくれ」


「なにかあればみんなで考えて対応すればよいのですわ。だってわたくしたちはチームなのですから!」


 胸を張るティアを見てササンクアも微笑んでいる。


「それで、どんな、相談?」


「探索についてのノウハウを配信してほしいってことなんだ。実はこの前の生配信で地下一層をかなりのスピードでクリアしたじゃないか。あれのせいでタイムアタックをする連中が増えているそうでな。無謀なことをしでかす奴らが出てこないかギルドは心配しているらしい」


「なんで、そんなこと?」


「タイムアタックか? なんでなんだろうな。より深い階層に行くためにさっさと地下一層は降りてしまいたいというのはわかるんだが。探索っていうのは他人と競うようなことでもないんだがな」


「それはジニア様がしたことだからですわ! 『優れた者を真似るのは成長の第一歩だ』とおじい様も書き残していますし」


「俺がしていることなんて探索での基本中の基本だぞ」


 事実、俺が駆け出しの頃にスノウボウルから叩きこまれたことがベースになっている。

 そこから自身の知見を加えて改良した部分はあるが基本は変わっていない。


「ジニアさんがそういった配信を公開することで不慮の事故に巻き込まれる人が減るのでしたらよいことだと思いますよ」


「それに貴族の皆様も評価してくださると思いますわ!」


「ローは、いいとおもう」


「そうか。わかった」


 みんなの賛成が得られたのだから、この依頼は受けるとしよう。

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