第110話 ボールサム、行動に出る
すべて計画通りに進んでいた。
一時期に多くの者がダンジョンへの挑戦を志すようになり、ギルドの業務に支障が出るようになっていた。
新人が増えることで不慮の事故が発生することをギルドが危惧するのも予想通りだった。
そこで地下一層に挑戦するチームが増えるようになんらかの手を打つ――具体的には未踏破エリアの調査を推奨するのも読めていた。
地下一層とはいえ危険はある。
実力が乏しく、かつダンジョンに慣れていない者が魔物に倒されることなど珍しくはない。
あるいはトラップによって命を落とす者もいる。
そうした過酷なふるいにかけられて残ったチームだけがダンジョンで生きていけるようになるのだ。
彼らはダンジョンで生き抜くための知識と経験と技術を持っている。
だがそんな慣れたチームであっても転送トラップだけは話が別だ。
チームが分断されることもあれば、いきなり魔物の巣に放り込まれて戦闘になだれ込むことだってある。
例は少ないが地下一層から二層以降へ転送される事例もあった。
準備が十分ではない状況でそんな状況に陥れば経験を積んだチームであっても容易に崩壊する。
そんな事例は枚挙に暇がない。
これだとボールサムは考えていた。
この状況に放り込めば、たとえダンジョンでの経験が豊富で戦闘能力に優れたチームであっても誰に疑われることなく排除できる。
だが確実は期したい。
たまたま上手くいくことに賭けるなど愚か者のすることだ。
勝負事は始める前に決着を付けておいて当たり前。
始まりの八家ではそれが前提で、話はそれからとされている。
だから金と人を費やして情報を集め続けた。
この瞬間だけで言えば、ボールサムはギルドよりも信頼性の高い情報を入手していたと言える。
欲しいのは確実に滅亡へ繋がる転送先の情報。
そして執念の果て、ボールサムは望む情報を手に入れた。
地下一層の未踏破エリアに残された転送トラップ。
その一つが未だ帰った者のいない場所だったのだ。
ボールサムが嗤う。
このような気持になれたのは久しぶりのことだった。
「……本気で言ってるの?」
小生意気な態度も今だけは広い心で受け入れることができた。
この先に小娘が浮かべるであろう絶望の表情を思い浮かべれば我慢できる。
「ええ。困っている者がいるのですから、それを助けに行くのは貴族として当然でしょう」
チュウゲン家の持つ別邸で〈
ダンジョンで未帰還のチームが増えている。
そのことに探索者である自分は憂慮している。
独自に情報収集をしており有力な情報を入手した。
だからダンジョンに入って救助に向かおう。
要約すればそういう話である。
もう一人のチームキャプテンであるタンジーは腕組みをしたままなにも言わない。
この男は無口なのではない。決定することを恐れる臆病者なのだとボールサムは見ていた。
「どうする?」
「ダンジョンから戻っていないチームがいるのは事実のようですけど……」
ニモフィラとキャトリアの縋るような視線を受けて、ようやくタンジーが口を開いた。
「その情報は確かなのか?」
「当然でしょう。チュウゲン家の者として不確かな情報で動くつもりはありません。逆に言えば、
それを聞いてニモフィラの表情が歪んでいた。
キャトリアもため息をついている。
「……いいだろう。ギルドへ行って計画書を提出してくる」
三人に見えないようにボールサムは嗤った。
「ホントにこの先に隠し部屋があるの?」
まだ信用していないと言いたげなニモフィラに笑顔で応じてみせる。
「ええ」
「ここに隠し扉がありますね」
キャトリアの報告にタンジーが頷いた。
「ではフェアリーアイを起動しますか。ああ、結構です。己のものを使いましょう。なにしろ塔から持ち帰られたという逸品ですから。これならもし転送に巻き込まれても生配信を続けてくれますよ」
面白くないと言いたげにニモフィラが鼻を鳴らしたが丁寧に無視をし、自身のストレージから取り出したフェアリーアイを起動する。
「これで問題ありません。進みましょうか」
隠し扉の先はちょっとした広さの部屋だった。
「なるほど。情報通りね」
「だから言ったではありませんか。事前にしっかり調べてあると。この先に小部屋があり、
壁を調べている三人からボールサムは少しだけ距離を取る。
「ありました。これだと思います」
キャトリアの報告にタンジーが頷き、わずかな窪みに手をかけた。
横へ引くと壁がスライドして小部屋が現れる。
「ホントにあった。転送部屋は
「そうです」
「ブレスレットに地図を表示しろ」
タンジーの指示にそれぞれのブレスレットを確認している。
「大丈夫。四人とも表示されてるから」
「問題ありません」
三人が小部屋に入るのを確認してボールサムは足を止めた。
「
振り返った三人がこちらに手を伸ばしているが扉が閉じられて見えなくなる。
「情報通りでしたね。クククク……ハハハ。ハーッハッハッハッハ!」
嗤いが止まらなかった。
復讐はこれで成ったのだ。
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