第104話 英雄、構造を推測する

 よく見ると大きさや色の異なる個体を並べて浮かべてある。

 どうやら雌雄一対で保管されているようだ。


「興味は尽きんが、今は詮索するのをやめておこう。我々にはやらねばならぬミッションがあるのだからな」


「その通りだ。すまない。あまりのことに圧倒されていたようだ」


「気持ちはわかる。誰も知らない未知が目の前にあるのだからな。これが通常の探索であれば、ここにしばらく滞在したいぐらいだ」


「ジニア様!」


 パキラの声に振り返る。


「こちらに例の印が残っています。どうやらこの扉から先へ進んだようです」


 それは扉と言うには随分と小さなものだった。

 高さは膝丈ぐらいしかない。


 入口を塞いでいたと思われる板が横にどけられている。覗き込んでみると這わなければ進めそうにない狭い通路が続いていた。

 ホコリの上に跡が残っているから、ここを這って進んでいったのだろう。


「わざわざ通常の通路を外れた理由はなにが考えられるでしょうか」


「道なりに進んだが行き止まりだった。あるいはなんらかの困難が予想されたから戻ってこちらを選んだのかもしれん」


 ダンジョンでは無理をするなと指導してきた。

 ここまで俺が教えたことを実践しているのだから、今回もそれに従ったのだと思う。


「シショー、ここ、なにかあった?」


 ローゼルが指差す壁は他とは少し色が異なっている。


「傷がついているな。これはナイフかな」


「ここにあった物を無理やり外し――」


 パキラが周囲を見渡す。

 だが近くにこの大きさに適した物は見当たらない。


「持って行ったのでしょうね」


 つまり、わざわざそんなことをする理由があったということだ。


「もしかしたらここにあったのは地図かもしれんな」


「なるほど。それなら苦労して外して持っていく理由になります」


「謎解きは終わったか?」


 腕を組んだシクモアだった。


「タンジーたちはここを入っていったのは間違いない」


「うむ」


 頷いたシクモアがパキラを見る。


「先行します」


 膝をついたパキラが通路に潜り込んだ。




 肘と膝を使って狭い通路を抜け切る。


「ジニア。面白いものがあったぞ」


 シクモアの指差す先は出てきたばかりの狭い通路のすぐ隣で、そこに金属製のプレートが固定されていた。


「これはここの地図か」


「今いる場所はこの色がついている部分だろう」


「ということは俺たちが通ってきたのはここだな。それから逆にたどっていくと――」


 記憶を頼りに俺たちが送り込まれた場所を指差す。


「ここがスタート地点だな」


「出口はどこにあると思う」


「そうだな」


 入り組んだ通路や部屋の形状から推測する。


「今いる通路から進んだ先。この六角形の部屋に面したここになにかあると思うんだが」


 かなり大きな六角形の部屋は五つの壁から通路が伸びて放射状に広がっているが、ある壁だけ部屋に繋がっていた。


「私も同意見だ。そして救助対象も同じ考えだったようだな。今、パキラに偵察させている」


 床を見ると六角形の部屋に繋がる方へ通路を進んだという印が残されていた。


 最後尾にいたタイムが通路から出たタイミングでそのパキラが戻ってくる。


「この先の部屋に大量のゴーレムがいます」


「部屋中に広がっているのか?」


「いえ。六つの出入口のうち一つにだけ扉があるのですが、その前をゴーレムたちは取り囲んでいます。それから数体のゴーレムが動けなくなっていました。あそこで戦闘があったようです」


 シクモアの視線が俺を捉える。


「どうやら追いついたな」


 逃げ込んだ部屋から出られないようにゴーレムが包囲しているのだろう。

 地下三層で俺たちが追い込まれたのと似た状況なのだと思われる。

 どうやらタンジーたちはよほどゴーレムと縁があるようだ。


「戦闘は我々に任せよ」


「ゴーレムを倒し続けると救援を呼ばれるぞ。ここは地下三層じゃない。戦闘能力は地下五層相当と考えるべきだ」


「実を言うとな――」


 腰に手をあてて立つシクモアは自信に満ちた表情をしている。


「ダンジョンの魔物は大迷宮の魔物に比べると一段か二段ほど劣るのだ。メイズランナーである私にとって地下五層の魔物であろうと物の数ではないだろう」


 たしかに生配信で見たシクモアは武装化した腕のひと薙ぎで大量のゴーレムを破壊していた。

 だがあれはあくまで地下三層での話だ。


「誰かを庇いながら戦うとなると難しいかもしれんが、自分の身を守る程度であれば問題あるまいよ。実際にゴーレムを確認したパキラはどう見る」


「シクモア様のおっしゃる通りです。なんの問題にもなりますまい」


「戦闘は私が請け負う。ジニアたちは救出を担当する。それは最初から決まっていた役割であろう」


「……わかった。タンジーたちと合流できるまでの時間を稼いでもらいたい」


「聖古宮王国の第三王女、シクモアが請け合おう」


「王女は内緒じゃなかったか?」


「……む。その通りだった。今のは忘れて欲しい」


 シクモアの口元が緩む。


「では、それぞれの任務を果たすとしよう」

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