第102話 英雄、キャンプ跡を見つける
扉の先は真っ暗な空間が広がっている。
「ここに救出すべきチームがいるということか」
シクモアの呟きを耳にしながらフェアリーアイを確認する。
「……ダメか」
転送時に影響を受けたのか動作しなくなっていた。
つまり俺たちの状況をギルドで確認できないことになる。
だが少なくともあの小部屋で転送が起きたこと、発動のキーが音声であることは伝わっただろう。
俺たちがタンジーたちと合流して、脱出しさえすればなんの問題もない。
シクモアはミニフラッドライトを手にして暗闇へ足を踏み出そうとしていた。
「怖いものなしだな。もう少し慎重にいかないか」
「魔物の気配は感じられないからな。だが妙な感覚がある。これはなんだ」
「お気を付けください。体に通常ではない負荷がかかっているようです」
パキラがシクモアの背後を守るように立つ。
「おお。ダンジョンの呪いというやつか。地下三層で感じたよりも強いようだな」
シクモアが小部屋から出ると、暗闇にわずかな明かりが灯る。まるで行くべき先を示すかのように通路の奥へ向かって次々と灯っていく。
「ご丁寧に進む先まで教えてくれるようだ」
「お待ちください、シクモア様。まずは現在地を確認すべきではありませんの? 『常に今いる場所を把握せよ。そして戻るべき場所を決めてから移動せよ』とおじい様の本にもありましたわ」
「一理あるな。どうだろう、ジニア。今いる場所がどこかわかるか」
俺の地図は通常のものよりも高性能だ。
指でピンチして広域を表示する。
周囲に図面がなにも表示されていなくても、光点の位置だけはわかる。
階層表示にすれば――
「地下五層だと!?」
かつて〈
「目的だった地下五層になんの苦労もなくたどり着けるとはなんという重畳」
シクモアは喜んでいるが、とてもそんな状況ではない。
「ジニアさん。地下五層の魔物はどのぐらい強いのでしょうか」
問いかけるササンクアの顔色が悪い。
自分たちのレベルに相応しくない場所であることを理解しているためだろう。
見ればティアとローゼルは互いの体を抱きしめ合いながら震えている。
「実は一度だけ地下五層のゴブリンと戦っているんだが……」
初めて地下五層へ到達したあの時、本格的な探索はしなかった。
地下四層までの疲労があったのは事実だ。
だがもう一つ、探索を続けなかった理由がある。
「ゴ、ゴブリンでしたら、わたくしたちも戦いましたわ。だから、きっと大丈夫ですわよね?」
「正直、地下一層のゴブリンとは比べ物にならないほど強かった。一戦してこれ以上は無理だと判断して撤退したんだ」
「そんな――」
塔へ登ったトップチームが一戦で撤退を判断するレベルの魔物が出る場所。
その事実を知ってなお。
「強い敵がいるのか。それは腕が鳴るな」
シクモアは笑顔だった。
それは他の三人も同じだ。過度の緊張も恐怖も感じてはいない。
「だがそんな魔物を相手にジニアたちを戦わせるわけにもいかんな。ここからは私のチームが先導するとしよう。構わないな」
「……ああ。すまないが頼む」
「なんの。最初から戦いは私が引き受けるつもりだったのだ。では進むとするか」
〈
先頭のパキラが足を止めた。
「ジニア様はそこでお待ちを」
パキラが単独で先行する。
しばらくしてから戻ってきた。
「キャンプをした跡があります。最近のものでした」
「ここでキャンプをし、後始末までしてあるということは安全な場所なのでしょう。私たちも休息するのがよいのではないでしょうか」
タイムの提案にシクモアが頷いた。
「そうだな。ではここで私たちもキャンプをするか」
「では俺は少し先を確認してきます。ミルフォイル、一緒に来てくれ」
ササンクアのように癒やしの力を持つという男が無言で頷き、パキラと一緒に偵察へ向かった。
「悪いがキャンプ跡を少し調べさせてくれ」
キャンプにはクセが出る。
たとえば焚き火をした際の木の置き方や火の始末。仲間が体を休めた場所などだ。
そしてこの火の始末やり方には覚えがあった。
「タンジーたちがここでキャンプをしたんだろうな。俺が教えた方法だ」
「綺麗な処理だ。灰などは利用させて貰おう」
言いながらタイムが火の準備を始める。
ほどなくして、いい香りがするカフカが配られた。
「ありがたい」
「ジニア様にいただいた豆を使ってみました」
温かい飲み物のお陰で心と体の緊張がほぐれた。
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