第101話 英雄、転送される

 幸いなことにギルドからの要請をシクモアは快く引き受けてくれた。


 ギルドマスター自らがダンジョンに入って遭難したチームの救出に向かうことにならずにホッとしたのは俺だけじゃないだろう。


 家へ戻り、ギルドでのことを伝える。

 三人は神妙な顔で俺の話を聞いたあと、それぞれの部屋に戻ってダンジョンに入る準備を整えた。


 救助に向かうのはなるべく早い方がいい。

 それだけ生きている確率が高くなるからだ。




 翌日早朝。

 ダンジョンの前でシクモアたちと合流する。


 スノウボウルやマグノリアたちは既にダンジョンに入ったそうだ。


「悪いな。こんなことに付き合ってもらって」


 握手をしながらシクモアは笑っていた。


「いいや。力になると言ったのは私の方だ。その機会が来ただけのこと。全力でサポートさせて貰うから安心してほしい」


「それは心強い。頼りにしてるよ」




 タンジーたちが向かった場所は地下一層の北東エリアにある未踏破エリアだ。

 まずはそこへ向かう。


 救出作戦の常として、フェアリーアイで限定生配信をしている。

 この生配信はギルドマスターの部屋にあるボードでのみ視聴できるようになっていた。


 俺を先頭に左右をティアとローゼル、後方にササンクアといういつもの隊列で進んでいく。


「慣れたものだ」


 ササンクアのさらに後ろにいるシクモアからは感心したような声が聞かれた。


 ほどなくして目的の場所に到着する。


 隠し扉の向こうにちょっとした広さの部屋があり、さらにその先に小部屋があると目されている。


 発見されている隠し扉から部屋に侵入し、部屋に罠がないかを確認した。


「なにも見つかりませんでしたわ」


「こちらもです」


「やはりこの壁の向こうがそうか」


 コンコンと叩くと向こう側に空間が広がっているのがわかる。


「正面の壁の一部が左右に開くはずだ。その先の小部屋が転送部屋だろう。大迷宮にも似たレイアウトの場所があったからわかる」


 シクモアが指示するとパキラが手で壁に触れ、わずかな窪みに指をかける。


「ふんっ」


 そのまま力を入れて横に引っ張ると壁がスライドして小部屋があらわになった。


「よし、では小部屋に入ろう。ローゼルもブレスレットの地図を表示しておいてくれ」


「うん」


 同じ部屋にいれば同じ場所へ転送されるのが転送トラップの常だ。

 用心のために地図を常時表示しておき、まさかの時に備えておく。


 それからフェアリーアイの前で小部屋に入って転送トラップの作動を試すことを伝えておく。


「待ちたまえ。先に入るのは私のチームだ。失礼だが、そちらのチームが転送され、その先に強敵がいれば全滅の危険がある。ここは戦闘能力に秀でた私が先行すべきだろう」


「……そうだな。悪いが頼めるか」


「もちろんだとも。それにこの手の転送には慣れている。大迷宮でも比較的ポピュラーなものだったからな」


 フェアリーアイを引き連れたシクモアは気負った様子もなく小部屋に入る。

 彼女に続いて三人も部屋に入ったが転送が開始される様子はない。


「なにも起きませんわね」


 小部屋を外から覗き込むティアが呟く。


「ジニアたちも入ってくるがいい」


 シクモアに促されて俺たちも小部屋に入る。

 しかし狭い部屋だから8人も入れば一杯だ。


「ふむ。人数や重量で発動するタイプではないな。他に考えられるのは壁のどこかにスイッチがあるか、時間経過か、なんらかのキーワードがきっかけになって作動するあたりか」


 壁面に近い者がスイッチはないかと探しているがなにも見つからないようだ。


「大迷宮では行き先を告げてから『転送』と口にすると発動していたが、ここも同じ仕組みかもしれん。なにか思いつくものはないか」


 音声が発動のキーというのは俺も初耳だった。


「そうだな……じゃあ、前と同じ場所へ転送してくれとでも言ったら――」


 背後の扉が閉まった。

 次の瞬間、体が浮き上がるような感覚に襲われる。


「と、閉じ込められましたわ!」


「これは転送だ。今、私たちは別の場所へ移動した」


「ローゼル、地図を確認するんだ!」


 言いながら俺もブレスレットに表示された地図を見る。


「ここは……どこ?」


 ローゼルが首を傾げている。


 現在地を示す光点が何もない場所に表示されていた。

 正常なダンジョン内ではないのは間違いないだろう。


 音もなく扉が開いた。

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