第100話 英雄、提案をする

「二人の指摘も理解できる。おまけにキャプテンの俺はアームドコートの召喚ができない状態だからな。そんな奴がダンジョンに入るのを歓迎する探索者はいないだろう」


「あァ、いや……」


「そこまで言うつもりはありませんが……」


 二人はバツが悪そうな顔をする。


「だが戦力不足という点においては、俺にちょっとしたツテがある。それを頼りたいと思うんだが」


「ツテとはなんじゃ」


「聖古宮王国の大迷宮をすべて攻略した迷宮走破者メイズランナーなら実力は十分だろう? ダンジョンに慣れていないとしても、俺のチームがサポートにつけば問題はないと思うんだが」


「なるほど。〈暁の光ライトニングドーン〉か。この国に来てまだ日は浅いが実力者なのは間違いない。ところで、お前は彼女の力量をどう見ている?」


 オウリアンダの表情には純粋な興味の色がある。


「アームドコートの武装化ができる以上、段の位にあるのは間違いないだろうな」


「おィおィ。段の位ってそんな……」


「たしかにあんな技は見たこともありませんが……」


「ギルドは彼女のランクをどう判定したのですか?」


 マグノリアの質問にオウリアンダが禿頭を指でかいた。


「ギルドマスターの俺が個人の情報を口にするのはよくないんだが、こういう場だから大目に見てくれ。ギルドは彼女を5段と判断した」


「ごッ」


「5段……ですか」


「まあ、そんなものだろうな」


 スノウボウルが鼻を鳴らす。


「お前さんだけが『わかってました』みたいに言うな、面白くない」


「悪い。そういうつもりはなかった。俺だって塔にいた頃はあのぐらいできたんだけどな」


「なッ!?」


「そう……なの、ですか」


「塔に入って半年ぐらい経った頃からアームドコートの性能が向上したのがわかったんだよ。彼女の鞭のように自分のスタイルに合わせてある程度の変形もできるようになったし」


「ここはさすが塔から帰った英雄と言うべきでしょうな。わずか一日で逃げ帰った私とはモノが違います。はっはっは」


 マグノリアが髭をしごきながら笑っている。


「そんなチームが助力してくれるのなら心強い。どうですか。まずは問い合わせをしてみるだけでも」


 オウリアンダは口を開けたままなにも言えないでいるチューベローズとナンダイナをちらりと見てから席を立つ。

 それからギルドのスタッフにシクモアのところへ使いを出すように指示をした。


「とはいえ、〈暁の光ライトニングドーン〉が協力してくれるとは限らんからな。次善の策を考えておきたい。当然だが三次遭難だけは絶対に避けるのが絶対条件だ。それゆえ1チームの救助に2チームを向かわせる」


 オウリアンダは有無を言わせぬ迫力で俺たちを見渡した。


「まずスノウボウルには救助に適したチームの編成をお願いする」


「わかっておる。既にチームを組んでいる者にも声をかけてもよいかの?」


 フリーで活動している者に声をかけて即席のチームを組んできたスノウボウルがこの確認をとるということは、本当に最適チームを結成するつもりなのだろう。


「今回は特例で許可する。ギルドからの証明書を発行するので受け取っておいてくれ」


「結構じゃ」


「スノウボウルのチームは〈危険な快楽デインジャラスプレジャー〉と組んでもらう。救助対象は〈壮大な計画グランドプラン〉だ」


「旦那にはお手柔らかに願いたいですなァ」


「ほほっ。思う存分、こき使ってやるから楽しみにしておれ」


「もう一つは〈筋肉がすべてを解決マッスルソルバー〉と〈我が郷里グッドホーム〉だ。君たちには〈厳格な道リガァロード〉を救助してもらいたい」


「承知しました」


「わかりました」


 なぜかマグノリアとナンダイナは互いの筋肉を誇示し合っている。


「〈不屈の探索者ドーントレスエクスプローラー〉は〈星を探す者スターシーカー〉と〈暁の光ライトニングドーン〉に担当してもらうが、〈暁の光ライトニングドーン〉が協力をしてくれる場合のみとする」


「協力を拒んだ場合はどうするつもりじゃ」


「その場合は俺が出る」


 唐突なギルドマスターの現役復帰宣言に、誰もなにも言えなかった。


「言っておくが冗談じゃないぞ。探索者としての勘が鈍らんようにダンジョンには定期的に入っていたからな」


「そういえば、数カ月に一回、ギルドスタッフが研修としてダンジョンの探索をしていましたな」


「その先導者が俺だ」


 白い歯を見せながらオウリアンダが笑っていた。

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