第99話 英雄、声を荒立てる
出席者を見渡してオウリアンダが話を続ける。
「転送トラップはいろいろと厄介だ。法則がわかっているのならショートカットとして利用もできるが、転送先がランダムではないかと思われるものもある。それにいつ使えるかわからん場所も多いからな」
ほとんどの転送トラップは連続して使えないと考えて間違いはない。
だが一部は何度使っても同じ場所へ出るのでショートカットとして活用されていた。
「〈
オウリアンダが俺を見たので発言をする。
「俺の仲間が地下一層北西の外縁部にあった未発見の転送トラップから地下二層の南エリアにある遺跡へ飛ばされた」
「フンッ。その口ぶりなら無事だったんでしょうな」
チューベローズの口は悪いが、今の言葉は俺のチームメイトが無事であったのを喜んでくれたのだろう。
「ジニアたちのような例もあるが、残念な結果になったチームもあった……」
「……チッ」
苛立たし気にチューベローズが舌打ちをする。
「相応の実力がなきゃ、家で大人しくしていりゃいいんですよォ」
「そうも言っていられん。幸いと言ってはなんだが、先日からダンジョン内に入るチームの行動予定を提出してもらうようになって、ある程度の動向が把握できるようになっている」
「先ほど問題が起きたという話でしたが」
マグノリアの言葉にオウリアンダが頷く。
「実は君たちは救出作戦の第二陣だ。第一陣は既にダンジョンに入っている。一部は無事に戻ってきたのだが、〈
「……なんだと?」
隣に座っているオウリアンダに詰め寄る。
「それはどういうことだ! どのチームも一流どころじゃないかっ。それに可能性が高いってどういうことなんだ。フェアリーアイはどうした!」
「待て待て。おぬしまで声を荒立てておっては話が先に進まんじゃろうに」
スノウボウルの分厚い手が俺の肩に置かれる。
「……すまない」
何事もなかったようにオウリアンダは話を続けた。
「当然だが各チームはフェアリーアイで生配信をしながら救出作戦を実行していた。だからどのルートで移動したのかもわかっている」
生配信は視聴者を限定できる。今回の場合はギルド内限定の配信にしたはずだ。
「あれは便利な道具じゃが、連続使用をしたり、階層を跨いだりすると調子が悪くなることがあるからの」
「つまり他の階層にいると考えるべきでしょうなァ。どうせ胡散臭い話を検証もしないで突っ込んでいったんでしょうよ」
「新規チームが随分と増えていたからな。そこから誤情報が広がった可能性もあるか」
ダンジョンに慣れていないチームが話を盛ってしまうのはよくあることだ。
そういうのが混ざるとなにが重要で、なにを優先すべきかの判断が難しくなってしまう。
「情報が錯そうしているのは間違いありません。そのあたりの整理は進んでいるのですか?」
「確度の高い情報をまとめているから出発までには渡せるはずだ。準備でき次第、この3チームの救出に向かって貰いたい。これはギルドからの指名依頼となるが断って貰っても構わない」
テーブルに肘をついたままのチューベローズが口を開く。
「未知の危機じゃないのが面白くありませんが、まァ、引き受けるのはいいでしょう。ただこの場に相応しくないチームがいるんじゃないですかねェ? スノウボウルの旦那はわかりますよ。この人に面倒を見て貰って育った探索者は多い。だから今回みたいな案件に即したチームだってすぐに結成できる。ですがね、くちばしが黄色いのを駆り出すのは正気の沙汰とは思えないですなァ」
「それについては自分も同意見です。事実、彼らは転送トラップに引っかかっている。たまたま転送先が地下二層で無事に済んだようですが、これが地下三層より下の階層であればどうだったでしょうか。戦闘力に不安がある以上、救出チームとしては相応しくありません」
「むぅ……」
唸るオウリアンダが俺を見る。
探索者として経験を積み、著しい成長を遂げているとはいえ、ササンクアたちがダンジョンに入るようになってまだ数カ月しか経っていない。
中堅クラスの実力があるのは間違いないが、逆に言えばトップクラスには及ばないということだ。
さらにナンダイナの指摘するように戦闘力にはかなりの不安がある。
三人のランクはそれぞれ6級。従来の基準に照らし合わせてみれば、地下二層は安定して探索できるが、それ以降では厳しいと言われるレベルだ。
スクリーンを回収したときのように戦闘を極力避ければ地下三層でもある程度の探索はできる。
だが今回のように明らかに危険がある場所へ向かう前提であれば実力不足は否めない。
だがタンジーたちが二次遭難にあっている以上、俺も座しているつもりはなかった。
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