第133話 20 ストレリチア、過度の緊張をする
ギルドの食堂は熱気に満ちていた。
大会の様子はフェアリーアイを通じて生配信されており、スクリーンやボードで誰もが見ることができる。
ここにもボードは設置されており、たくさんの人が観戦していた。
「おいおい。今のはないだろう。なんで後ろから近づいてきているのに気が付かねーんだよ!」
「お前こそ気が付いてないだろ。視線を誘導してたんだよ。だから後ろに回り込めたんだろうが」
「は? どういうことだよ?」
「派手に動いて仲間が回り込む時間を稼いでいたのがわかんなかったのか?」
「あ、そういえば……」
「ははは。そんなんだからお前は魔物にも後れを取るんだよ」
「お、俺のことは関係ないだろう! っていうか、お前だってこうやって見ているから気が付いただけで、実際にその場にいたらわからなかったんじゃないか?」
一部ではケンカでもしているのではないだろうかという剣幕でやり合っているのを見て、ストレリチアはすっかり委縮していた。
「あれは露骨すぎたんじゃないかなあ」
「実際に戦闘していると意外に気が付かないものですよ。だからこそ後衛は広く視野を持たないといけないんですけどね」
「あー、目の前のことでいっぱいいっぱいになるのはわからなくもないかな」
「だから連携が大切なんだ。そうジニアも言っていただろう」
「そうだね。さて、わたしたちも行きますか」
ニモフィラの声に全員が席を立つ。
ストレリチアも慌てて立ち上がった。
先日からダンジョンの地下一層が解放された。
二層以降の解放は状況を確認しつつ順次と発表されている。
とはいえ有力チームのいくつかは大会にエントリーしているため、その確認には今しばらくの時間が必要だろうというのが多くの探索者の見解だった。
当然ではあるが未踏破エリアへの接近は固く禁じられている。
転送トラップによってなにが起きたかを知っている者であれば敢えて危険に近寄ることはないだろう。
ダンジョンで生計を立てている探索者たちの突き上げにギルドが耐えられなくなったからじゃないの?などとニモフィラは言っていたが、実際のところはストレリチアにわかるはずもない。
とにかく地下一層だけとはいえダンジョンが解放された。
新人に経験を積ませるにはもってこいだというわけで〈
ストレリチアにとっては初めてのダンジョン探索である。
先ほどから表情はこわばり、足元はフワフワとしているようで落ち着かない。
これまで多くのことをチームの仲間やジニアたちから教えられてきたが、頭が真っ白になっていてなにをやってきたのかさっぱり覚えていなかった。
「そんなに緊張しないでも大丈夫。わたしたちが一緒にいるんだからね」
「は、はい!」
「アームドコートの召喚も安定してできるようになりましたし、なんの問題もありませんよ。自信を持ってください」
「わ、わかりました!」
だが相変わらず表情に余裕はなく、口元は引きつっているし、緊張のあまり呼吸も早い。
かけられた仲間の声も右から左で、実際のところ、なにを言われているのかさっぱりわかっていない。
ドンと背中を叩かれる。
「ゲホッ、ゲホッ」
思わずむせてしまう。
顔をしかめつつ見上げると、キャプテンのタンジーが無言で見下ろしていた。
「ちょっと。うちのストレリチアにひどいことしないでくれる」
「……励ましたつもりなんだが。あとうちのってなんだ。うちのっていうのは」
「かわいそうにむせてたじゃない。大丈夫だった? タンジーってば力加減ってものを知らないから。痛かったら痛いって言った方がいいよ」
「あ、いえ。大丈夫です」
「いつもの表情に戻ったみたいですね」
キャトリアに笑いかけられて自分の頬を撫でてみる。
どこか変わったのだろうか?
「ふーん。たまにはタンジーもいいことするじゃない」
「たまにっていうのはなんだ。たまにっていうのは。だいたいだな。もう少しキャプテンを尊重してもいいんじゃないか」
三人の歩調に合わせて進んでいく。
この人たちと一緒なら大丈夫だ。
なぜだかそんな風に思えることができた。
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