第136話 23 英雄、教会の教えを振り返る

 俺たちとは別のブロックに入ったシクモアたち〈暁の光ライトニングドーン〉も最終戦を待たずに決勝トーナメントへの進出を決めていた。

 次も勝つだろうから一位通過は間違いない。


 これまでの試合はマグノリアたち以上の一方的な展開ばかりだった。

 さすがは聖古宮王国の誇る迷宮走破者メイズランナーだ。


 一方、俺たちの予選グループ最終戦の相手はマグノリアたちの〈筋肉がすべてを解決マッスルソルバー〉だった。

 3大会連続で決勝まで進んでいる完成度の高いチーム相手に俺たちがどこまでやれるか。


「シクモア様たちとはぜひとも決勝でお会いしたいですわね!」


 笑いながらそれを口にできるティアを現実が見えていないとそしることはできない。

 最初から負けるつもりで戦う者はいないのだから。


「ふー、ふー……」


 熱い飲み物が苦手なローゼルは息を吹きかけて冷ましている。


 それを見たタイムが自身の収納空間ストレージからなにやら取り出した。


「それはなんですの?」


「氷を作るレプリケーターだ」


 レプリケーターから作り出した細かな氷をグラスに詰め、そこにローゼルのカップに入っていたカフワを注ぎ入れる。


「これなら飲めるだろう」


「うん! ありがと、タイム」


 ローゼルは喉を鳴らしてカフワを飲み干した。


「おいしい!」


 にっこりと笑うローゼルを見てタイムも微笑んだ。


「タイム様の料理の腕前は素晴らしいですわね。その上、探索者――そちらのお国では走破者ランナーでしたわね。ランナーとしても一流だなんて、どれだけの鍛錬を積まれたのでしょう」


「もとは食堂で働いていたのです。店で使う香辛料はランナーから買い求めていたのですが種類を選べませんし、供給も安定しません。なにより非常に高価でした。それなら自分で迷宮に入って探した方が早いのではないかと考えるようになったのです。そうしてしばらくはランナーとして活動していたのですが――」


「たまたまその店を私が贔屓にしていてな。迷宮で手に入れたレプリケーターで香辛料の複製ができたからそれをやったのだ。どうせ私が持っていても使いどころがなかったからな」


「おかげで香辛料に不自由することはなくなり、新しい料理をいくつも作れるようになりました。そんな時、シクモア様が国を出ると聞きまして、他の国の料理を研究するために同行させていただいたのです」


「この国に来て驚いただろう」


 シクモアたちは表情を少し変えるだけでなにも言わなかった。

 気を使ってくれたのだと思う。


 なにしろこの国の料理には味がないからな。

 味付けなんて塩を振りかけるぐらいだし。


「聖古宮王国では迷宮で得られるものを口にするのが普通なのですか?」


 聖塔神鏡会の教義でダンジョンのものを口にするのはタブーとされているササンクアらしい質問だった。


 頭にターバンを巻いたミルフォイル・パテールは静かに頷く。


「我々は迷宮と共に生きているのですから、それは自然なことです」


「鏡会の教えと似ているな」


 俺の言葉にササンクアが怪訝そうな顔をする。


「塔で得られたものを摂取するのは喜びだって言ってたじゃないか。聖古宮王国では迷宮が、聖塔王国では塔がそれに該当するだけって話だろう」


「ああ、なるほど。たしかにそうですね。ジニアさんたちと行動を共にするようになって、鏡会の教えを忘れてしまっていたようです」


 今のササンクアはダンジョンで得たスクラップバーやグレーパックからレプリケーターで作った食事でも気にしないで食べている。


 一応、配信をする際は画面に映らないように配慮はしているが。

 いらぬ波風を立てないですむすのならそれに越したことはない。


「我々の教えでは迷宮のものを摂取することで心身が鍛えられるとされています」


「皆さんがお強いのはそのおかげなのかもしれませんわね」


「その通りだ。そしてそれはこの国でも同じではないのかな」


 俺たちの視線が発言したシクモアに注がれる。


「どういうことだ?」


「うん? こちらでは違うのか? だからこそ、この短期間で力をつけてきたのだと思ったのだが」

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