第28話 英雄、双子の戦いを振り返る
「すまなかったな。みんなを危険な目にあわせてしまった」
これまでに俺が遭遇したどれよりも巨大なディープアリゲーターだった。
恐らくはこのエリアのボスだったのだろう。
一匹がオトリになって視線を引きつけ、もう一匹が背後から襲うなんて知恵を普通のディープアリゲーターが持っているなんて聞いたことがないからだ。
「こいつの映像はギルドにも提出した方がいいだろうな」
幸いにもフェアリーアイは起動させていた。
ダンジョン内の情報がアップデートされることで脅威度を下げることができる。
小さなことかもしれないが、これも探索者にとっては必要な活動の一つだ。
「お二人ともケガがなくてよかったです」
頭から水をかぶった状態の二人はアームドコートの解除をしている。
濡れた服がぴったりと体に張り付いていた。
「ちょっとビックリした程度でしたわ。ササンクア様のシールドのお陰で助かりましたわ」
「すっごく、とんだ」
下級のガードアームドでありながらこれだけの強度を持つシールドを付与できる者はそうないだろう。
地下二層に生息している魔物の攻撃程度なら一撃目を確実に防ぐことができるというのは実に心強い。
咄嗟に展開した絶対防御障壁もそうだが8級レベルはとっくに超えている。
自分から攻撃できるようになれば上位ランカーに食らいつけるんじゃないだろうか。
「そういえばティアはどうして背中に攻撃をしたんだ。ライトアームドの攻撃力であの皮膚を抜けると思ったのか?」
「ええ。ジニア様がわたくしでもダメージを与えられるとおっしゃったので」
「場所を選べばって言わなかったか?」
「うん。シショーは、そういった。あと、おなか、ねらえって」
「そうでしたかしら?」
「だから、ローは、おなか、たたいたの」
「あの攻撃はよかった。ちゃんと回り込んで狙っていたな」
「シショーに、いわれたから、ちゃんとした。えへへ」
期待するように上目遣いで見つめられたので、頭を撫でてやる。
「わたくし、そのことがすっかり頭から抜けていたようですわ。申し訳ございませんでした」
自分の行動を振り返ってミスがあったことを認め、頭を下げられるのはたいしたものだと思う。
「頭上が死角の魔物は多い。だがディープアリゲーターはそうじゃないんだ。普段は水中にいて目と鼻だけを水面に出している。だから上と横の視界は広くて死角がほぼないんだよ。そういった魔物の特性はちゃんと知っておくと戦いを有利に運べるぞ」
「肝に銘じておきますの」
「だが足場が悪いところでよくあれだけ高く跳べたものだ。ライトアームドの機動力は凄いな。うらやましい」
軽々と俺の頭を跳び越えていったからな。
アームドコートの補助のない俺ではああはいくまい。
「おほめいただきありがとうございますわ。ところで、もう一匹はあっけなかったですわね。あの程度で倒せてしまうだなんて」
「生態と弱点を知っていればこんなものさ」
それも条件次第ではある。
相手が水の中にいるところを先制できたから可能だっただけだ。
そもそも経験のある探索者はディープアリゲーターを相手に水中で戦わないからな。
「さて。せっかくだからこいつらの魔核を回収しておこう」
三人は巨体と硬い皮膚に悪戦苦闘しながらも魔核を取り出した。
「よし、いいだろう。何事も慣れだからな。これから手際はどんどんよくなるさ」
「また体液でベトベトになってしまいましたわ……」
「ヘンな、におい、する」
「できたらすぐにでもお風呂に入りたいですね」
ざっと汚れを流すことはできたが、汚れた水では気分もよくないだろう。
「遺跡の中に綺麗な水が出る場所があったはずだ。まずはそこへ向かおう。ここでもたもたしているとディープアリゲーターにまた襲われるかもしれないからな」
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