第21話 英雄、謝罪をする
翌日。
受注した依頼書を持って三人と再会した。
「みんな、しっかり休めたか」
「はい」
「わたくしとローゼルは休みの間もずっとノービススーツを着続けていましたわ。慣れると思ったより平気ですのね」
「いつもより、楽だった、かも。おトイレも、行かないで、いいし」
ノービススーツは排出した体液をろ過して腰の後ろに水として蓄えておくことができる。
この水は飲用することだって可能だ。
実際に使うかどうかは別として。
「今回はダンジョンに入るための用意だってきちんとしてきましたのよ。早速、ストレージを活用させていただいていますわ」
「私もフォーサイティアさんからアドバイスをいただいて準備をしてきました。いつまでもジニアさんに頼り切りというわけにはいきませんからね」
「ローは、これ」
ストレージを持っていないローゼルが机の上に背嚢を置く。
どうやら探索に必要な基本的な道具類は一通り揃えてあるようだ。
「いいじゃないか。探索者としては合格だ」
褒めると三人の顔が輝く。
「今回はギルドから依頼を受けようと思っている。これが依頼書だ」
「わたくし初めて見ましたわ」
「ローも、はじめて」
依頼書には目的や納期、予想される難易度などが記されている。
「その前に話しておかないといけないことがあるんだ。ササンクア」
「なんでしょうか」
「実は昨日、君の兄弟子のヒサープという人物に会った」
特に反応らしいものはない。
「随分心配していてな。鏡会へ戻ってきてほしいそうだ」
「そうですか」
「え!? それでは塔へ行くのはどうなってしまうんですの?」
「クア、どっかいくの? やだ。ローは、クアと、いっしょがいい」
しかし二人の不安をよそに、ササンクアは微笑んだままだ。
「鏡会へは戻りませんから安心してください」
「いいのか?」
「はい。塔へ登るという目的を達成したら戻るつもりでしたから。今はまだ戻ることができません」
俺を見る瞳には強い決意の色が見える。
なるほど、これはたしかに頑固そうだ。
「そうか。わかった」
しかし本当の問題はそれではない。
「ヒサープから聞いて初めて知ったんだが、聖女はダンジョンの物を口にしてはいけないんだってな」
「聖女に限りませんが、教義でそうなっていますね」
椅子から立ち上がり、右手を胸に当てて頭を下げる。
「知らなかったとはいえ、レプリケーターの料理を食べさせてすまなかった。本当に申し訳ない」
「どうしてジニアさんが謝るんですか?」
「あの時に使ったスクラップバーは塔で入手したものだが、ダンジョンで手に入るスクラップバーと中身はほぼ同じ物なんだ。だからダンジョンの物を口にしたとも言える。俺はとんでもないことをしてしまった……すまない」
頭を下げたままササンクアの言葉を待つ。
「頭をあげてください。むしろ私の方こそあの時は戻してしまって申し訳ありませんでした」
「しかし……」
「私が口にしたのは塔で入手したものだったんですよね。でしたらなんの問題もないと思います。聖なる塔で得られたものを摂取できたのですからむしろ喜ぶべきことなのです。それなのに戻してしまって……あの瞬間、ダンジョンの物を口にしてしまったのだ思い込んでしまい体が勝手に反応してしまったんです。せっかく美味しい料理をいただいたのにすみませんでした」
「お二人はなんのお話をされているんですの? わたくしたちにもわかるように説明をしてくださいませ!」
話についていけない双子にヒサープから聞いたことを説明する。
「つまりササンクア様にダンジョンの物を食べさせてしまい、聖女の称号を失わせてしまったと思ってジニア様は謝罪をされたのですね」
「そうだ」
「でも実際は塔で入手した物から作った料理なのでササンクア様としては問題がない。むしろ喜ぶべきことだとおっしゃるのですね」
「そうなります」
「ただしスクラップバーは塔でもダンジョンでも中身はほぼ同じものだと。だから考えようによってはダンジョンの物を聖女様が口にしてしまったのではないかとジニア様は考えているわけですのね」
「ああ」
両腕を組んで考えていたティアが顔を上げる。
「この場合はササンクア様のが筋が通っていると思いますわ。だって事実、塔で手に入れたものを使われたのでしょう? 聖なる場所で得られたものなのですからなんの問題もありませんわ」
「そういうものなのか?」
「そういうものなのですわ! そもそもササンクア様が問題ないとおっしゃっているのですしね」
ササンクアは優しく微笑んでいる。
「本心を言いますと、塔のものだとかダンジョンのものだとかを気にすべきではないと思っています。そんな些細なことにこだわっていたら塔では生きていけない。そうではありませんか?」
「ああ。長期間の探索になればダンジョンであれ塔であれ食料と水の確保は最重要事項だからな」
大量の携帯食料を事前に用意していくことはできるが、それだけで何ヵ月、何年も過ごすのは厳しい。
食欲が落ちていずれ口に入れられなくなり、行動不動になるだろう。
「だからたとえダンジョンのものであろうと慣れていこうと思っています。それにせっかく温かくて美味しいお料理がいただけるんです。それを口にせずに餓死していたら元も子もありませんから」
「シショーの、ごはん、とても、おいしい」
「わたくし、休暇中の食事に困りましたのよ。どうしてもあの時にいただいたシチューを思い出してしまって……ああ、思い出しただけでお腹が鳴ってしまいそうですわ」
そんなに気に入ってくれたのか。
嬉しい反面、悪いことをしてしまった気がしないでもない。
「塔で手に入れたスクラップバーはあとどのくらいお持ちですか?」
「数えきれないぐらいある。なにしろ塔での食事はこれ以外になかったからな」
「それなら安心です。ですがいらぬ誤解を招かないように食事をとる配信には私が映らないようにしましょう。映っていないところではダンジョンのものでも挑戦していこうと思います。また美味しい料理を振る舞ってくださいね。楽しみにしていますから」
「わたくしたちが食べるお料理についてはお気になさらなくても結構ですわ! どんなものでも美味しくいただきますもの」
「ローも、シショーの、料理たべる。だって、おいしい、から」
「……わかった。ありがとう」
「困ったことがあれば相談をすればいいのですわ。だってわたくしたちはチームなのですものね」
ティアの言葉に俺は頷いた。
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