第84話 英雄、隠し部屋に最後に入る
「こ、これは……」
「スクラップバー、ですわね」
「す、す、す……」
ローゼルの足元に大量のスクラップバーが落ちていた。
「すっごい!」
ローゼルはウキウキで拳を繰り出し、人が通れるぐらいの穴を壁に開けてしまう。
多少大きな音が出ようともお構いなしだ。
それから、こちらの部屋になだれ込んできたスクラップバーを拾い上げる。
「シショー、いっぱい!」
「そうだな。いっぱいだな」
「しかしこれはすごい量ですわね。当分、食料には困らないですみそうですわ」
心なしか穴から冷気が漏れ出てきている気がする。
「まだ探索は終わっていませんよ。むしろこれからが本番です」
「そうですわね。ローゼル。とりあえずそれは置いておきなさいな」
「わかった。シショー、とったら、ダメだよ」
「とらないから安心しろ」
隣の部屋は薄暗いので、三人はそれぞれミニフラッドライトを手に取った。
「わたくしから行きますわ。魔物の気配はありませんけれど、油断はしませんわよ。いいわね、ローゼル」
「うん」
「手順通りにフェアリーアイを起動させますから少し待ってください」
未踏破エリアに踏み込む際はフェアリーアイで録画をしておくことで、ギルドの処理をスムースに進めることができるようになっている。
俺はストレージからフェアリーアイを取り出してササンクアに渡す。
「ありがとうございます。ここからは発言にも気を付けてくださいね。では……起動を確認しました。現在、私たちがいる場所は北北西にある未踏破エリアの隣の部屋です。これから崩した壁から未踏破エリアへ入ります」
「それでは、いきますわよ」
アームドコートに身を包んだ二人が慎重に足を踏み入れた。
二人を追いかけるようにフェアリーアイが部屋に侵入する。
「やはり魔物はいないようですわ。明らかにこの部屋は室温が低いですわね。吐いた息が白くなってますわ」
「あ、グレーパック、あった!」
穴の向こうから興奮したローゼルの声が聞こえてきた。
ある意味、ローゼルにとってはストレージよりも嬉しいのかもしれないな。
ササンクアに続いて俺も隠し部屋に入る。
たしかにこちらの部屋の室温は低くなっているようだ。
とはいえ凍えるほどではない。ノービススーツを纏っていれば影響はほぼないといってもいいだろう。
「ここは……倉庫でしょうか」
「かもしれないな」
かなりの量のスクラップバーが箱に詰められ、棚に積まれている。
ローゼルの言うようにグレーパックもあるが数は多くない。
「ずっとここに保管されていたようですね」
「そうなんだろうな。床や棚の埃の積もり具合を見る限り、長く動かされてはいないようだ」
「一通り調べてみましたけれど、扉みたいなものは見当たりませんでしたわ。抜け道などもないようですわね」
「ここはスクラップバーとグレーパックしかない隠し部屋だったようですね。フェアリーアイは止めましょう……はい、もう大丈夫ですよ」
「シショー、使えそう?」
箱に入ったグレーパックを持つローゼルは期待に顔を輝かせている。
「レプリケーターの材料としてなら大丈夫だと思う。だが、これをそのまま口に入れるのはやめておいた方がいいだろうな」
もともとカラカラに乾いているものだから腐っている可能性は低いと思うが、あえて危険を冒す必要はないだろう。
「こんなに、たくさん、あるのに……」
とはいえレプリケーターの素材としては問題なく使える。
これは近いうちに自分専用のレプリケーターが欲しいと言い出すんじゃないだろうか。
「隠し部屋に食料を隠しておいたということでしょうか」
「でもそれも使う人がいなければ意味がないことだと思いますわ」
「ローが、食べるから、意味はある」
全部持ち帰るつもりなのかローゼルはグレーパックを背嚢に詰め込んでいる。
間違いなく彼女たちだけで手に入れた戦利品なのだから好きにするのがいいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます