第83話 英雄、後ろから見守る

 先頭はササンクアで、その左右をティアとローゼルが固めている。

 俺は最後方から黙ってついていくだけだ。


「この先、だよ」


 三人のうちで唯一ブレスレットを持っているローゼルが地図を見ながら告げる。

 しかし通路を曲がった先には壁があるばかりだ。


「この壁の、むこうが、そう」


「扉らしきものはありませんわね」


「隠し扉があるのかもしれません。調べてみましょう」


 三人は慎重に壁や床を調べている。


 地下一層の未踏破エリアを探索するにあたり、三人は一つの目標を立てた。

 それは俺の指示なしで、三人だけでやり遂げるというものだ。


「床にはなにもないみたいですわ」


「壁も調べてみましたが、つなぎ目やスイッチみたいなものも見当たりません」


「じゃあ、あっちのほうから、さがしてみる?」


 ローゼルが通路の奥を指差す。


「その前に地図の確認をした方がいいと思いますわ。部屋の配置などで隠し扉の位置を推測できるかもしれませんもの」


「わかった。みんなで、見られるようにする」


 ローゼルのブレスレットに収められている地図はこれまでの探索を経てかなり細かい所まで記録されている。

 ノウハウ用の生配信をしていたこともあり、地下一層はかなり歩き回っているからだ。

 記録された地図の細かさは、それだけダンジョンを歩いた証拠でもある。


「こちらの部屋と通路の壁を見比べてくださいまし。部屋と部屋の壁が随分と薄くはありませんか?」


「たしかにここの壁だけは他と比べると薄いですね。まずはこの部屋の壁を確認してみましょう」


「まって。この部屋、ワナがあるって、でてる」


 前回通ったときに解除した罠も、時間が経てば復活していることが多い。


「部屋に入る時には注意が必要ですね」


「部屋だけではありません。移動時も罠に注意しないといけませんわ。気がせくと足元がおろそかになるものですもの。おじい様の本にもありましたわ。『ゴールを目前にしたときこそ一番用心せよ』と。警戒してまいりましょう」


 きちんと報告をし合い、情報をまとめて次の行動を選択している。

 さらに警戒も怠っていない。

 ここまでは合格だ。


 チームを結成してからというもの探索者として必要なことは一通り教えてきた。

 あとはそれが実践できるかどうかだ。


 安全を確認しながら通路を進み、目的の部屋の前に到着する。


「わなに、気をつけて」


「どんな罠だったかわかりますか?」


「うん。アラーム」


 アラームは大きな音を出して魔物を呼び寄せるトラップだ。


「ということは入口付近に解除用のスイッチがあるはずですわね」


 小柄なティアは屈みながら、ササンクアは背伸びをして罠を解除するための装置を探している。


「ありました。これですね」


 カチリと小さな音をさせてササンクアがスイッチを切る。


「それでは、わたくしが先頭で入りますわ。ローゼルはわたくしに続いてくださいな」


「うん」


「シールドはどうしますか?」


「このエリアの魔物であればアームドコートだけで平気ですわ。では行きますわよ」


 すぅと息を吸い込んだティアが部屋へ踏み込む。

 ローゼルがそれに続いた。


「問題ありませんわ」


「なにも、いない」


 安全確保ができたところでササンクアも部屋に入る。


「さて。未踏破エリアと接している壁はこちらですわね」


 ティアが入口から見て右手側の壁へ近づいていく。


「隠し扉のスイッチでもあるといいのですけれど……」


 ペタペタと壁を触って仕掛けがないか探している。


「ゆかにも、ないみたい」


「見込み違いだったのかしら。もしかすると反対側の部屋に仕掛けがあるのかもしれませんわね」


 ササンクアがなにやら考え込んでいる。


「ローゼルさん。この部屋と反対側の部屋、どちらの壁が薄いかわかりますか?」


「んー……こっち」


「なるほど」


 ササンクアはコンコンと軽く壁を叩いている。


「では、この壁をローゼルさんに撃ち抜いてもらいましょう」


「ええ? それはちょっと乱暴ではありませんの……」


「この壁は他と比べて薄いようですから、広い部屋を壁で仕切ったのかもしれません。それに薄い方が壁も破りやすいですからね」


「それも一理あるかもしれませんわね。では、ローゼル。お願いいたしますわ」


「じゃ、やるよー」


 アームドコートを召喚したローゼルが右手をグルグル回している。


「えーい!」


 装甲を纏って大きくなった右拳が壁にめり込んでいた。


「よっ」


 腕を引き抜くと、壁の向こうにあったものがザラザラとこぼれ出てきた。

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