第53話 ボールサム、ダンジョンに挑む

「ははははは! ダンジョンなど所詮はこの程度なのですよ。臆病で力がない者が過剰に喧伝しているだけに過ぎないわけです。真の実力者であれば初見であろうともなんの問題もないではありませんか」


 ダンジョンに足を踏み入れたボールサムは見敵必殺とばかりに魔力弾を叩き込んでいった。

 相手がなんであれお構いなしだ。


「くくく……はははははははっ。脆い脆い! 脆すぎますよ! 手応えがまったくないではありませんかっ。魔物とはこんなものですか。これを恐れている者がいるなんてとても信じられませんね。ははは、ははははははは!」


 ゴブリンの頭を次々と撃ち抜き、コボルドの体がミンチになるまで連射で制圧する。


 罠はアームドコートの装甲でしのぎ切り、強引にルートを進んでいく。


「それともこれは己が天才故にそう感じてしまうのでしょうか。いやはや、困りましたね。だとしたら平民のレベルの低さは実に嘆かわしい限りではありませんか」


 また一匹、逃げていくゴブリンの背中を撃ち抜いた。


「こんな辛気臭い場所を這いずり回るなんて蛆虫のような連中にこそ相応しいと改めて認識しましたよ。それは探索者も同じですがね」


「……こんなの、探索じゃない」


「なにかおっしゃいましたか」


「……別に、なにも」


 タンジー、キャトリア、ニモフィラを後方に控えさせ、ボールサムが一人先行する形で地下一層を駆け抜けていく。


 たしかに進んでいく速度は早い。

 罠や魔物を後先考えずにねじ伏せているのだから当然とも言える。


「一応、調べてはきているんだ」


 ボールサムが選んでいるルートは地下二層への最短ルートだ。

 ただし魔物がよく出るエリアを通り抜ける必要があるので、ダンジョンからアーティファクトの回収を生業としている探索者たちに選ばれることはない。


 過去にニモフィラたちも通ったことがあるからわかる。

 地下一層の中でもトップクラスに危険なルートなのだ。


 そこを一切の敵を寄せ付けずにボールサムは進んでいく。

 上級のシュートアームドは伊達ではなかった。


「さあ、このまま一気に駆け抜けてしまいましょう。くくく。この爽快感は悪くないですよ。いけませんいけません。これは癖になってしまいそうです」


 その呟きを聞いて、ニモフィラは鼻にシワを寄せた。






「己の生配信を見ていた者は驚いたことでしょう。初トライで地下一層踏破の最短時間を記録してしまったのですから。やはり己は天才ですね」


 少し前まで地下一層をどれだけ早く攻略できるかが流行っていたのは事実だ。

 だがあの当時でさえ、こんな強引な、後先考えないタイムトライアルをした探索者は一人としていなかった。

 あくまでも彼らは地下二層へ向かうついでにやっていたのだ。


 そもそも今ではタイムトライアルがすっかり下火になっているのを、この男は知らないのだろうかとニモフィラは思う。


「ではこのまま地下二層も抜けてしまいましょう。己たちの目的は地下四層ですから。いっそのことそのまま地下五層に行くのもいいかもしれません。そうすれば同行している卿らにも箔が付くでしょう。なに、感謝は不要ですよ。仲間にも気を配るのはキャプテンの役割ですからね」


 地下二層に足を踏み入れたボールサムはご機嫌だった。


「そんな所まで行けるはずがないじゃない」


「そうね。これはちょっと……いえ、絶対に無理よね」


 ジニアと共に地下四層まで行ったニモフィラたちは知っていた。

 進めば進むほどダンジョンは困難な環境になり、魔物も強くなることを。


「もたもたしていると置いていってしまいますよ。安心なさい。怖ければ己の後ろの隠れていればいいのです。ははははは」


 その余裕がどこまで続くか見守るのも一興かな、などと意地の悪いことをニモフィラは考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る