第128話 15 英雄、慎重を期する
「ローは、まっすぐがいい。あいてがいるの、わかってるし」
「そうですわね。ここに相手が全員いる前提で動くのはシンプルでやりやすいですわ。迷いがなければ思い切り動けます。おじい様の本にも『動くときは迷いを持つな』とありますもの」
「そう思わせるのが罠だと考えられませんか?」
「ササンクアの意見を聞かせてくれ。手短にな」
相手がここに潜んでいるのなら、あまりのんびりとはしていられない。
ちなみにダフォダルの本には『動く前にはよく考えよ』ともあった。
考えをまとめるようにササンクアが目を閉じる。
「たとえば私たちをここへ誘導して、建物を破壊して巻き込ませることは考えれませんか?」
「それはまた大胆な作戦ですわね。そして効果的でもありますわ」
「どうやって、こわすの? 相手に、ヘビィアームド、いないよ?」
地下三層でローゼルが壁を崩して通路を塞いだように、ヘビィアームドであればこの建物を短い時間で崩壊させることは可能だろう。
だがライトアームドが三人がかりならばどうか。
できなくはないが時間がかかるはずだ。
それなら対応はなんとでもなる。
脱出する時間はあるだろうし、なんだったら逆にこちらが建物を崩壊させたっていい。
「あるいは狭い場所で戦うのが得意なのかもしれません。特に細い通路にいる時に前後から挟まれたら勝ち目は薄いと思います」
「ベテラン探索者だから狭いダンジョンでの戦いに慣れているのは間違いないな」
できれば数の差を確保しながら戦いたいと思っているが、狭い場所で戦うとなるとどうしても一対一の状況にならざるを得ない。
こうなると実力と経験に勝るあちらが有利だろう。
「じゃあ、あいてが、考えてない、ルートをつかうの、どうかな?」
「この入口以外を探すということですの?」
「ううん。ここから、のぼるの」
ローゼルが指差したのは壁だ。
いくつか手がかりはあるから登ることは可能だろう。
ある程度、意見が出たところで三人が俺を見る。
「よし。ローゼルの案でいこう。壁を登って屋上から相手の背後を突く。練習通りにすればいいからな」
ダンジョン探索では高所に登ったり、逆に降りたりという状況はよくある。
だから壁面の手がかりを頼りに登攀したり、ロープを使って降りるという練習も積んできた。
「では、わたくしが先行いたしますわ」
ティアはアームドコートを召喚し、跳躍一つで二階にあるベランダに取りついた。
そしてもう一度のジャンプで屋上へ到達する。
「流石はライトアームドの機動力だな」
屋上の縁から顔を覗かせたティアが手を振り、ロープを降ろしてくれた。
「順番はいつも通り。ササンクア、俺、ローゼルだ」
頷いたササンクアは
垂れ下がったロープにスリングを巻き付けて固定し、さらに自分の腰につけたハーネスと接続する。
こうすることで結び目を下から手で押し上げながら壁を登っていくことができる。
途中で疲れたら手を離し、体を傾けて休むことも可能だ。
何度も練習した甲斐もあり、それほど時間をかけずに全員が屋上に到達する。
「ここからが本番だ。気を抜かないようにな」
不意打ちが狙える状況なので先頭には俺が立つ。
屋内へ入るための扉に罠がないのを確認してから侵入した。
しばらくその場に留まり、目が慣れるのを待つ。
待ち伏せがあるとわかっていて照明を使う訳にはいかない。
慎重に足音を立てないように進んでいく。
三階にある部屋を順番に確認したが、何者かが一通りフロアを歩き回った痕跡以外はなにも発見できなかった。
「トラップはなし。どうやら上から来るとは思っていないようだな」
ここまでは先手をとれている。
この優位を生かして勝負を決めたいところだが、相手は一流の探索者。そう簡単にはいかないだろう。
「二階に向かうぞ」
同じように二階もチェックして回ったが、やはりなにも残ってはいなかった。
「まさか一階で待ち構えていたんでしょうか」
「あるいはここに潜んでいるというのはわたくしたちの読み違いという可能性もありますわね」
「結論は一階を調べてからでいいだろう。気を緩めるなよ」
しかし、一階でもチューベローズたちの痕跡を見つけることができなかった。
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