第127話 14 英雄、初戦に臨む

 戦いの場となる巨大なフロア――通称、闘技場に足を踏み入れる。


 ここは直径100メートルほどある空間で、内部には岩場や森、水場のほか、市街地風の建物が並ぶエリア、細い道が無数に交わるダンジョンのような場所まである。


 入り組んだ地形に加えて遮蔽物が多いのでしっかりと索敵をしなければ遭遇戦になだれ込んでしまう。

 そうなれば地力に勝るチームが有利だ。


 力が劣るのならば先に情報を入手し、相手の意図を読み、作戦を立てる必要がある。


 四人が並んで立つと目の前をゆっくりと妖精の瞳フェアリーアイが飛んでいく。

 大会の様子は生配信されていた。


「さて、作戦通りにいこうか」


 俺の言葉に三人が頷く。


 相手は探索者として超一流の〈危険な快楽デインジャラスプレジャー〉だ。

 構成はライト3、ガード1とわかっている。


 彼らは探索の様子を配信していないので、ここからは構成からの推測だ。


 恐らくはガードアームドを後方に配置し、三人のライトアームドを機動運用してくるのだと思われる。

 この場合、後衛のガードアームドが2ポイントを持つリーダーだと考えていいだろう。


 ライトアームドは運動性能に秀でる。

 より遠くまで、より速く、より静かに進める。

 それが三人もいるのだ。

 当然、索敵能力も高くなる。


 仮に相手リーダーと目されるガードアームドの居場所を見つけるためにツーマンセルで行動していたとしよう。

 十中八九、こちらが気が付く前に補足される。


 そうなれば時間を置かずにライトアームドの三人が集結し、数の差を生かして撃破されてしまうのは想像に難くない。


 だからライトアームドの運用で相手を上回るのは難しいと考える。


 それならば四人でまとまって動いて遭遇戦に備えた方がいい。

 向こうのガードアームドが後方に控えているのならば4対3。格上相手でも勝ち目のない戦いではない。


「いくよ」


 先頭は不意打ちを食らっても一撃目は耐えられるであろうヘビィアームドのローゼルだ。

 その後ろが俺。そしてティア、ササンクアと続く。


 背丈よりも高い壁に沿って市街地エリアを走る。

 足音はあまり気にしていない。


 これだけ派手に動いているのだ。

 俺たちの目的が後衛の捜索なのは相手も把握しただろう。

 むしろ気が付いて貰った方がいい。


 相手がどこにいるかもわからず、いつ襲われるかとビクビクしているより、目の前に出てきて貰った方がよほどいいからだ。


 事前に打ち合わせしてあった通り、ローゼルは相手の後衛が潜んでいそうな場所へ向けて一直線に進んでいる。


「まずは、たかいところ、さがす」


 後方に控えているのならば相手の接近を警戒しているはずだ。

 その場合、高所の確保は必須と言える。


「たかい、建物は……あっち?」


 走りながらローゼルが指差す方向には高層の建築物がある。


「そうだな。わざわざ低い所を選ぶとは思えないからそっちでいい」


「わかった」


「特に視線などは感じませんわね。相手の潜伏能力が高いせいかもしれませんけれど」


「俺たちの動きはバレている前提で動いているんだ。あまり気にするな」


「入口、みえた」


 そこは池に接する、細長い三層の建物だった。

 通りには面しているが建物まではそこそこ広い庭がある

 建物の各階にはバルコニーが張り出しており、外壁をよじ登っていけば屋上まで行けそうだ。


 ざっと周囲を確認するが人影はない。

 素早く入口に近づき、状態を確認する。


「……ついたばかりの足跡があるな」


「ではここにいる可能性が高いんですね」


「思っていたよりもあっさり見つけられましたわね」


「じゃあ、いく?」


 大きさや形を見る限り、残された足跡は一人分しかない。


 少し考える。

 ベテラン探索者であるチューベローズのチームがこんなわかりやすい痕跡を残すだろうか。


「……誘われているのかもしれないな」


 俺の呟きを聞いた三人は互いの背中を預ける形でフォーメーションを組む。


「……誰もいませんわね」


「建物の中で待ち伏せされているんでしょうか」


「でも、せまいよ?」


「それだけ不意打ちもしやすいだろうな」


 さて、どうしたものか。


 このまま素直に待ち構えているだろう場所へ踏み込むべきか。

 それともなにかしら策を考えるか。

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